翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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花の屍 六

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「ううっ……」
 さらに項から胸もとへと男の手が伸びてきて、竹弥は猿ぐつわを噛みしめた。
「いったい誰が君を最初に抱くのだろう……、私と同じような趣味を持つ男たちは、よく噂していたものだよ。どれぐらい払えば、どれぐらい援助すれば、近江さんは君を抱かせてくれるんだろう、と」
 言われた言葉のあまりの低俗さと薄汚さに、竹弥はもがきぬいた。だが、かえってきたのは、男の卑しい笑い声だ。
「ははははは。まさか君、知らなかったというのかい? まだ幼かった君がパーティーや催しに連れてこられるたび、我々のあいだじゃ、賭けになるほどだったよ。誰が君のお初をいただくのだろう、とね。皆君を欲しがっていたのだよ。だが、なかなか近江さんは首を縦に振ってくれない。きっと焦らして値を吊り上げるつもりだと噂していたもんだよ」
 なにを言っているんだ!
 そんな想いが伝わったらしく、早田は楽し気に笑った。
「初心だねぇ、君は。何も知らないのかい? 近江一門の後援会というのはそういうものなのだよ。正清だって、十六歳のとき、一番金を出してくれた後援者にお初をゆるしたんだからね」
 兄の名を聞いて、竹弥はあまりの驚きに、抗うことも忘れていた。
 全身が、いや魂が硬直して、石のように身動きできなくなっていた。
「本当に、君は何も知らないんだね」
 早田がおもしろがるように、ゆっくりと言葉を吐く。
 手は、ねっとりと熱を持って、竹弥の臀部をまさぐる。脂ぎった指で白布を引っ張ったりもする。
「んん……」
 身体をいいように弄ばれる屈辱もさることながら、竹弥は今聞いた事実のもたらした衝撃に呆然自失していた。
「十六歳のときの正清は、それは美しくて、あのときは誰もが彼を欲しがった。いろいろ条件を出して、最後までりに残ったのは四人。そのうち一人は私さ」
 競り。まさに兄は競売にかけられたのだ。
 そんなことが、本当にあるのだろうか。
「信じられない、という様子だね。だが、あるんだよ、ねんねさん」
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