翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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花の屍 五

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「ううっ、うぐっ、」
 嫌がって、背や、縛りあげられている手足をゆさぶる竹弥をおさえこむように、さらに強い力で早田が尻をおさえこんだ。
「おや、君、これ下着じゃないのかい? ほぅ、これはまた……風流というか……粋なものを着けているね」
(あっ……)
 竹弥は羞恥に瞼を閉じた。
「浴衣ですからね。その方が情趣があるでしょう?」
「まったくだ」
 杉屋は浴衣姿の竹弥に下帯を強制した。隙を見て逃げ出そうと狙っていた竹弥は、淫らな浴衣は我慢したが、下帯を見せられたときはかなり羞渋した。
 だが悪趣味なことに、竹弥が嫌がれば嫌がるほど杉屋はそれを敢えて着けさせようとするのだ。前は女物の下着を強制されたこともある。その都度、竹弥は死にたいほどの羞恥と汚辱感に泣きながら、結局は、男のもとめるがままにするしかなく、無理やり痴態を強いられ泣くことになるのだ。
 痛いほどに眉を寄せていると、背後から伸びてきた手に顎を取られた。
「ああ、そんな辛そうな顔をして……。やっぱりそこいらの男娼やオカマとは全然ちがうね。この潔癖さ。清楚さ。女にもそうないよ」
「その潔癖な近江竹弥の、こんな可愛い格好を見れるのですから、お客さんは幸せですよ」
 くぐもった笑い声が響く。
「違いない」
 ひとしきり笑ってから、しみじみと早田がつぶやいた。
「こんな……すごいものを見れるとはね。梨園で知られた絶世の美青年。いや、まだ少年と呼んでも通用するだろうね。こんな綺麗な、高貴な若様が、まさか私の前で、こんなもの凄い……、はしたない格好をしてくれるとはね。ふふふふふ」
「ううううっ!」
 悔しさに、猿ぐつわを嵌められたまま竹弥は吼えた。
「おやおや。やっぱり気位高いお姫さま……王子様だね。そう暴れるんじゃないよ」
 言いつつ、早田が脂ぎった自分の手や顔を、竹弥の白い項に押し付けてくる。
「知っていたかい? 後援会の男たちや奥様たちのなかには、けっこう君を狙っているものもいるんだよ」
 耳もとに相手の唇が触れ、竹弥は不快感にまた眉をしかめた。
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