翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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花の屍 三

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 江戸時代の拷問にある海老責めのかたちをゆるくしたような格好を強いられ、男を待つことになった。
 浴衣の裾はまくれがり、古い電傘からこぼれてくるぼんやりした明かりのもとに、竹弥の白い足や太腿がさらけ出されてしまう。しかも、今夜の竹弥の浴衣は、目の冴えるような紅色だった。それこそ往古の吉原の遊女がまとうような真紅の浴衣である。それが引きちぎられた牡丹の花びらのように無残にまくれあがり、そのせいで、かすかにだが白布に覆われた臀部も見える。
「く……ふぅ……」
 布団に顔をうずめて、苦しさに、どうにかして姿勢を変えようとしたがままならない。
 いや、竹弥を追い詰めるのは、取らされた体勢の苦しさだけではなかった。
「んん……」
 縛りあげられている四肢を、竹弥はもじもじと揺らした。息苦しさのためだけではなく、頬が上気しているのが自分でもわかる。
 もはや逃げることもできず、ただ、こんな異様な格好で男の訪れを待つことしか、今の竹弥にはできない。その悔しさに嗚咽がこぼれそうになる。
 しかしどれだけ竹弥がいとうても、やがて、そのときは来た……。
 足音が聞こえてくる。
 杉屋一人ではない。もう一人の男の足音も聞こえる。
(ああ……!)
 こんな不様な姿を旧知の男に見られる屈辱に、竹弥は恐れおののいた。
 だが、残酷にも時は止まってくれない。
 襖の引かれる音が響く。

「竹弥く……ん」
 中をうかがうような低い声が竹弥の耳にひびいてきて、あらためて竹弥は絶望的な気分になった。
「いるんだね? 入るよ」
 問われても返すすべもなく、ただくぐもった呻き声を出すことしかできない。
 ちょうど襖の前には、以前のように屏風が立てられている。前とおなじく逆さにされて。
 襖をあけ、屏風を横切って、外界と違う場所へと、男は静かに入ってくる。
「竹弥君? おおっ……」
 竹弥の格好に驚いたのか、男がひるんだ気配が伝わってくる。竹弥は敷布団に顔をつっぷした。
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