180 / 225
乱れ桜 十二
しおりを挟む
「ち、ちがいます! 遊びに来ているわけじゃありません!」
「え? じゃ、まさかここで小遣い稼ぎしているのかい?」
早田がますます驚いた顔になった。やや、わざとらしさも臭うが。
「竹弥は、事情があって働くことになったんですよ。よろしかったらお客さん、あんたが最初の客になってくれませんか?」
驚きのあまり口がきけないでいる竹弥のまえで、早田は平然としている。
「ほう? 私でいいのなら、喜んで最初の客になるがな」
どこまで本気か冗談かわからないが、早田という男は、世間知らずな竹弥が思っていた以上に裏のある男のようだ。
「ですが、お客さん、こいつは俺の専属でね。お買い上げいただいたところで本番はお断りしているんで。それでもよろしければ、お貸しますが」
「ほう」
ますます興味ぶかげに、意味深な目で早田は竹弥と杉屋を見くらべる。中年男特有の、視線にこもるねちこさがおぞましい。
竹弥自身も、あらためて早田という男を、別の目で見てみた。
早田は四十は過ぎているが、五十にはいっていないぐらいの年齢だろうか。この時代の四十代しては若々しく、整髪料でまとめられた髪も黒々としている。身なりも良く、背広や薄手のコートにしても、さすがに裕福さを隠せず上等そうなものだ。顔立ちは格別整っているわけではないが、けっして見苦しくはない。
だが、金で開耶のような若い美少年をもてあそぶ趣味があり、しかも今、自分を性的な対象として値踏みしているのかと思うと、はげしい嫌悪が湧いてくる。こんな男に自分はかつて助けをもとめようとしていたのかと思うと、腹がたつ。
「じょ、冗談じゃない!」
竹弥の潔癖な反応を笑いながら、杉屋が強く腕を引く。
「それでは、この話は終わったということで。ほら、行くぞ」
「あ、おい、待ちたまえ」
杉屋に引きずられながらも、竹弥はやはり開耶のことが気になって振り向いた。
「開耶……!」
いつものように木南と呼ばず、開耶と呼んでいた。
「先輩……」
廊下に取り残された開耶の声は、ひどく心細く聞こえてきて、いつまでも竹弥の神経をひっかいた。
「え? じゃ、まさかここで小遣い稼ぎしているのかい?」
早田がますます驚いた顔になった。やや、わざとらしさも臭うが。
「竹弥は、事情があって働くことになったんですよ。よろしかったらお客さん、あんたが最初の客になってくれませんか?」
驚きのあまり口がきけないでいる竹弥のまえで、早田は平然としている。
「ほう? 私でいいのなら、喜んで最初の客になるがな」
どこまで本気か冗談かわからないが、早田という男は、世間知らずな竹弥が思っていた以上に裏のある男のようだ。
「ですが、お客さん、こいつは俺の専属でね。お買い上げいただいたところで本番はお断りしているんで。それでもよろしければ、お貸しますが」
「ほう」
ますます興味ぶかげに、意味深な目で早田は竹弥と杉屋を見くらべる。中年男特有の、視線にこもるねちこさがおぞましい。
竹弥自身も、あらためて早田という男を、別の目で見てみた。
早田は四十は過ぎているが、五十にはいっていないぐらいの年齢だろうか。この時代の四十代しては若々しく、整髪料でまとめられた髪も黒々としている。身なりも良く、背広や薄手のコートにしても、さすがに裕福さを隠せず上等そうなものだ。顔立ちは格別整っているわけではないが、けっして見苦しくはない。
だが、金で開耶のような若い美少年をもてあそぶ趣味があり、しかも今、自分を性的な対象として値踏みしているのかと思うと、はげしい嫌悪が湧いてくる。こんな男に自分はかつて助けをもとめようとしていたのかと思うと、腹がたつ。
「じょ、冗談じゃない!」
竹弥の潔癖な反応を笑いながら、杉屋が強く腕を引く。
「それでは、この話は終わったということで。ほら、行くぞ」
「あ、おい、待ちたまえ」
杉屋に引きずられながらも、竹弥はやはり開耶のことが気になって振り向いた。
「開耶……!」
いつものように木南と呼ばず、開耶と呼んでいた。
「先輩……」
廊下に取り残された開耶の声は、ひどく心細く聞こえてきて、いつまでも竹弥の神経をひっかいた。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説



ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!


朔の生きる道
ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より
主人公は瀬咲 朔。
おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。
特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる