翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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乱れ桜 九

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「ああ、駄目だってばぁ」
 布団に横たわっているのはまぎれもなく開耶だった。上半身はやや起こしている彼の下半身に、浴衣姿の男がおおいかぶさっている。
「うう……ん!」
 闇に慣れてきた竹弥の目は、どうやら客となった男が、開耶の下半身に顔をうずめている姿を認めた。
「はぁ……ん」
 まるでポルノ映画にでてくる色情狂の女のように開耶は喘いでいる。やや、わざとらしげにも聞こえるが。
「だ、駄目、そこ、嫌だってばぁ……」
 開耶の浴衣は脱げかけて、薄闇にも色白の濡れたような肌がかすかに見える。髪はみだれて、首筋にからまっているのが、なんとも煽情的だ。
 竹弥は頬が熱くなってきた。
 他人の情事を垣間かいま見るのは勿論はじめてだ。子どものころ、偶然見てしまった不良たちに嬲られる売春婦の白い足が思い出されたが、……あれは情事というより強姦か。
「はぁっ、はぁっ……ああっ、そ、そこ!」
 強制されて仕方なかったのかもしれないが、開耶はあきらかによがっている。愉悦の声が竹弥の耳をつんざく。
「やめさせないと……」
 自分のもらした声がひどく頼りなげにひびいた。
「かえって殺生なことかもしれないぞ、あの餓鬼には」
「……無理やり、こんなところにつれてこられて、あんなことさせられているんだ。だから……」
「まぁ、待て。どのみち今は客が買った時間だ。女将との約束がある」
 それからの数十分は竹弥にとっては辛い時間だった。
 耳をおおいたくなるような開耶の乱れた声に、背に怖気が走る。だが、一番嫌なのは、開耶のあさましい姿に、自分を見てしまうことだ。
 抱かれるているとき、自分もあんなふうに恥もなく痴態をくりひろげ、獣のような声をあげていたのかと思うと、いたたまれない。すぐ側にいる杉屋の体温も疎ましい。 
「はぁっ、ああっ、あああっー!」
 ひときわ高い声が響き、やがて静かになった。
「終わったかな……」
 コホン、と杉屋はわざとらしい咳をたてた。
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