翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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乱れ桜 六

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「ここはな、男同士が遊ぶために使う店だ」
 そんなところで開耶がなにをしているのか。竹弥は聞くのが恐ろしかった。
「恋人同士が泊まりに来ることもあるが、ここへ相手をさがすために来る連中も多い。そうそう好みの相手が見つかることもないので、金を取って相手をするシスターボーイや男娼も多いのさ」
 男同士の連れ込み宿兼売春宿というところだ、と杉屋がつぶやくように説明した。
 竹弥は、お化け屋敷を見ているような気になってきた。
「こ、ここに木南が本当にいるのか?」
「ああ。ここでは売れっ子だ。来てすぐ客がついた。おい、そんなに目を剝くなよ」
「あ、あれほどやめてくれと頼んだのに……!」
 言うだけ無駄だとわかってはいても、責めずにいられない。
「おい、待てよ」
 杉屋の声を無視して、竹弥は門内へ入っていた。引き戸の扉を開けると、正面に人がいた。
「いらっしゃいませ」
 まるで銭湯の番台のような席に正座して帳面のようなものをつけているのは、和装の女将のようだが、声から男だということがわかる。髪は丁寧にセットしてあるが、もしかしたらかつらなのかもしれない。
「あ、あの……」
 竹弥は相手を一目見てまごついてしまった。
 着物は濃紺ではあるが、女ものである。女装の男性を見たのは初めてというわけではないが、場所が場所なだけに気おくれしてしまう。
 濃い化粧をした、その男の女将は竹弥と、あとから入ってきた杉屋を見比べて、意味ありげに笑った。
「あら、杉さん、こちらお連れ様で?」
 近くで見ると、すっきりと通った鼻筋や、切れ長の目など、顔だちなどは整っている方だが、何分、やはり大きいのだ。それにごてごてと塗りたくった化粧がやはり不自然だが、こういう場所ではある意味自然なのかもしれない。
「なによ、そんなお化けでも見るような目で見ないでちょうだいよ。オカマを見たのは初めてなの?」
「は、初めてというわけじゃ……」
 なんといっても梨園育ちの竹弥である。女形や役者のなかには、ときに女言葉が出てしまう人もおり、おそらくは私生活では女なのだろう、と噂される者もいるが、それに格別嫌悪を持ったことは、ないつもりだった。
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