翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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乱れ桜 二

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 冷たかった水が急に沸き立ったかのような、奇妙な錯覚に竹弥はおののいた。
 どういうことだろう。これは……。
 誰かに何かをされているわけでも、身体にあやしげな薬を塗り込まれているわけでも、秘所に異物を挿入されているわけでもない。それなのに、身体の芯がじわじわ熱くなってきている。
(こんな……! こんなことって……!)
 竹弥も十九の健康な身体を持つ男であるから、今までにこういったことがなかったわけではない。わけではないのだが、だが……。
 今までのように淡い、なだめればすぐおさまるような春の目覚め程度の情動とは、違うのだ。
(どうしよう……?)
 誰も見ていない。一人なのだから、本能にしたがえばそれですぐ済むはず。
 それなのにひどく懊悩するのは、体内の熱が求めるのは、かつてのように解き放つよろこびだけでなく、受け入れるよろこびの両方だからだ。
 それに気づいたとき、竹弥は愕然とした。
 竹弥はいたたまれなくなった。だが、火は消えてくれない。
 ふるえる手でシャツをたくしあげ、ズボンのファスナーを下ろす。男にしては細い指を下着のはざまに入れた。
 そこまでなら若い男なら当たり前のことだろう。だが、もう片方の手も自然に動きはじめていた。
(くそっ!) 
 まどろこしくなり、畳の上に膝立ちになると、ズボンも下着も膝まで下ろしてしまった。
 誰にも見せられない姿だ。
 右手で若い芽をなだめ、左手で後ろの園を探ってしまう。
 今、自分がどれだけ浅ましいことをしているのかは、必死に考えないように努め、身体の内を焦がす熱火をおさめることだけに集中した。
 だが、そうなると頭に浮かんでくるのは、連日受けた苦いはずの凌辱の記憶だ。
 杉屋の指によってもてあそばれたときのこと、椅子に縛りつけられたときのこと、紐で刺激されたときのこと……。恐ろしかったはずの経験が、今はやるせない想いをともなって竹弥をたかぶらせる。
(ああ……俺は、本当におかしくなってしまっている)
 泣きたいのをこらえ、両手で必死におのれを追い詰めた。
 とにかく身の内にともった火を早く消してしまいたい。早く終わらせてしまいたい一心だった。
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