翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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夢の名残 七

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「それほど心配なら、そのうち会わせてやるさ。それより、おまえ、」
 声音が低く不気味なものに変わった。
「あの餓鬼にやらせたのか?」
「や、やってない!」
 竹弥は必死に首を横に振って否定した。開耶がどういう状況にあるのかわからないが、これ以上杉屋を怒らせたらまずいことになる。
 とにかく杉屋の怒りをやわらげて、開耶を解放させるにはどうしたらいいか。
 自分自身の今の境遇もわすれて、竹弥はなんとかして開耶を助けられないかと考えた。
「木南は少しふざけただけなんだ。早く家に帰してやってくれ。そうでないと、親が心配して本当に警察に捜索願を出すかもしれないぞ」
 開耶から聞いていた話からは、一日二日、息子が家に帰らないからといって、すぐに警察に相談に行くような母親ではないような気がするが、とにかく杉屋が考えを変えてくれることをねがって言ってみた。
 だが、そうやって竹弥が懇願すればするほど杉屋は機嫌悪そうな顔になる。
「すぐ帰すわけにはいかないさ。あいつにはしばらく俺の知り合いのところで働いてもらうことになったからな」
「は、働くといったって、彼はまだ学生なんだし」
 にんまりと杉屋は笑う。芝居に出てくる悪党そのものだ。
「ふん。あいつなら充分稼げるさ」
 その顔と言葉で、竹弥は男が開耶になにをさせるつもりか察し、血の気が引くのを感じた。
「まさか、おまえ、木南を……」
「悟りがはやいな。そうだ。男相手の売春宿で働いてもらうことにした」
「ひ、ひどい!」
「俺のものに手を出したのだから、当然だろう。五十万の慰謝料を要求したんだが、当然払えるわけがないからな。身体で稼いでもうように話をつけた。明日から、あの餓鬼には客を取ってもらうことになる」
「そんな、そんなこと、よくも!」
 人を金で売り買いするような話を、あっさりと告げる杉屋があらためて恐ろしい人間に思えた。
 同時に、開耶のほっそりと繊細そうな姿が思い出され、竹弥は身震いしそうになる。開耶が同性愛者たちの慰みものになるなど、あってはならない。
「駄目だ! そんなこと、絶対駄目だ! どこにいるんだ? 頼むから、すぐ連れ戻してくれ!」
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