翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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夢の名残 六

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「先輩、この人、いったいなんなんですか?」
「頼む、杉屋、彼は帰してやってくれ」
 布団から出て、畳のうえに正座して、竹弥は必死に懇願した。開耶まで杉屋の毒牙にかけるわけにはいかない。
「ふん。ひと様のものに手を出すような奴は、しっかりと詫びを入れさせないとな」
「こっちへ来い!」
 杉屋が開耶の胸ぐらをつかむ。
「な、なんなんだよ!」
「よせ!」
「おまえは引っ込んでいろ!」
 はげしい恫喝に、竹弥は反論できなかった。
「ちょっ……、なんだっていうんですか!」
 開耶が廊下の奥へと引きずられていくのを、ただ竹弥は呆然として見送っていることしかできなかった。


「あの餓鬼にはしっかり落とし前をつけさせた」
 薄暗くなった頃になって戻ってきた杉屋はそう告げた。
「暴力をふるったのか?」
 杉屋が用意してくれた食事にはまったく箸をつけることもせず、竹弥は訊いた。卓をはさんで向かいあうような形で二人は座っていた。
「そんな野暮なことするか。あんな綺麗な顔を傷つけられるか。あの顔には利用価値があるな。あの餓鬼には、あいつにできるやりかたで詫びてもらったんだよ」
 そこに性的なものを感じて竹弥は背に悪寒を感じた。
「木南は、今どこにいるんだ? 家には帰してやってくれたのか?」
「詫びを入れてもらうまでは帰せないな」
 嘲笑をこめて杉屋が言う。この男は本当にヤクザ者なのだと竹弥は実感した。
「そんな……。まだ未成年なんだぞ」
 竹弥だとて二十歳になったばかりだが、今は年下の開耶のことが心配でしかたない。
「ど、どこにいるんだ?」
 杉屋はわずらわしそうな顔になった。
「知り合いのところで預かってもらっているんだよ」
 生きてはいるらしい。竹弥はすこし安堵した。まさかいくら杉屋でも殺人まではしないだろう、と常識の範囲で考えられないよう物騒な雰囲気を杉屋は匂わせている。
「親が心配するだろう。警察に通報されたらどうするんだよ?」
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