翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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夢の名残 五

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「まったく、とんでもない餓鬼どもだな」
 いきなり響いてきたその声に、竹弥は心臓が破裂しそうになった。
 開かれた襖の外に立っているのは、杉屋である。まさに仁王立ちの姿勢で二人を見下ろしていた。
「こんな女みたいな餓鬼と盛っていたのか? 見境のない奴だな」
 怒りをふくんだ声が恐ろしい。
「ち、ちが……!」
 竹弥は乱された浴衣の襟や裾をとりつくろいながら、なんとか抗弁しようとしたが、言葉が出ない。
「なんなんですか、あなたは?」
 開耶もあわててはいるが、いきなり現われた杉屋に苛立ちをかくそうとしない。彼は、杉屋のことをたんなる使用人と思っているのだ。
「こいつは俺の男だ」
 杉屋が竹弥を睨みつけたまま、唸るような声をあげた。
 一瞬、目を見張った開耶は、竹弥の顔を見た。竹弥はどう答えていいかわからず、情けないほど狼狽えてしまう。年下の開耶のほうが今はよっぽど度胸がある。
「……なに言っているんですか? あなたはただの管理人でしょう?」
「俺はそいつの身体のすみずみまで知っているんだよ。坊や、人のものに手を出してただですむと思っているのか?」
 さすがに開耶は困惑し、怯えた顔になった。
 たしかに開耶は外見に相違していろいろ人生経験を踏んでいるようだが、杉屋はやはり格がちがう。この男は相当の修羅場を見ている。
 どれほど辛い想いをしてきたにしても、未熟な学生である自分が太刀打ちできる相手ではないことを、凄まれた一瞬で開耶は悟ったようだ。
「……今日のところは、これで失礼します」
 目を伏せ、室を出ようと襖の外に立つ杉屋の脇をとおり抜けようとした開耶を、杉屋は怒鳴りつけた。
「おい、待て! それで済むと思っているのか。俺のものにちょっかい出したからには、それなりの償いをしてもらうぞ」
「なに言っているんですか?」
「杉屋、やめてくれ」 
 竹弥は焦った声をあげた。
「おまえは引っ込んでいろ!」 
 室が震えるほどの怒声に竹弥も開耶も息を呑んだ。
「ほおお……見れば見るほどお綺麗な坊やだな」
 シャツの胸元を引っ張りあげられ、開耶は青ざめた。多少、武道の心得があるとはいえ、いや、あるだけに、杉屋が恐ろしい男であることがわかってきたのだろう。
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