翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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夢の名残 三

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 以前から、可愛い子だと硬派こうはの学生たちのあいだでは注目の的だった。なかには本当に恋文をわたした学生も一人か二人はいたと聞く。だが、彼らが開耶の目を見張るような美しさに求めたのは、当然欲望を受け入れる対象としての、受け身の相手としてだろう。
 しかし開耶は抱かれたいのではなく、抱きたいと思う側だったのだ。
 本来秘めていたさがなのか、竹弥に関してだけはそうなのか。もしくは、同性愛者によっては、性の対象を相手によって変えるのか。
 伊吹に対しては、おそらくは抱かれたいと思っていたのだろうが、今の開耶は、あきらかに竹弥を抱こうとしている。
 外見に似合わず、開耶は雄の本能を身の内にひそめていたようだ。
(俺は……まさか、開耶に抱かれるのか?)
 杉屋ならばまだしも、この可憐の少女のような風貌の開耶に抱かれるなど、受け入れられない。それは杉屋や浦部にされたときよりも、ある意味でさらに屈辱的で恥ずべきことのように思える。今さらだとは思うが。
「だ、駄目だ!」
 竹弥は必死にあらがった。
 細身の竹弥よりも華奢に見える開耶だが、信じられないことに力で竹弥をねじふせてくる。いや、実際には、力というよりも技だろうか。
「ふふ。俺、こう見えても合気道やっているんですよ。ねぇ、先輩、いい子になって、今日は俺のものになってください」
「駄目だ! 駄目だったら!」
 ややわざとらしげに開耶は眉の端を落とした。いかにも悲しい、というふうに。竹弥はむごいことを言っているような気がしてくる自分を必死に叱咤した。
「そう? それほど嫌なら、」
 頬をぴたりとくってきてきて、開耶は耳元に熱く囁いた。
「先輩が俺を抱く? 抱く方ならいいでしょう?」
 自分が開耶を抱く――。ひどく生々しく、淫靡にひびく誘いの言葉に竹弥は頭がくらくらしてきた。
「そ、それは……」
「ね? それならかまわないでしょう? 俺はどっちでもいいんですよ。一度だけでも先輩が俺のものになってくれたら本望だ。俺にずっと憑りついている清二だって、きっと成仏できるだろうし」
 本気での言葉ではないだろうが、開耶の後ろに伊吹が立っていそうで、竹弥がひどく心動かされたのも事実だ。
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