翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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夢の名残 二

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 すくなくとも、まだ見ぬ明日には、無限の可能性があったのだ。
 そう思うと、またあらたな涙があふれる。
 その涙を開耶の唇が吸う。
「先輩、可愛い」
 また唇に接吻される。
「本当に、清二の魂が俺のところに戻ってきたみたいだ。俺が清二の代わりに先輩を愛したい」
「……だ、駄目だ」
 浴衣のあわせに開耶の手が伸びてきて、さすがに竹弥はあわてた。
 一瞬、開耶はとまどうように指の動きを止めた。
「俺が嫌い?」
「ち、ちが……」
「お願い、先輩。今は俺を清二だと思って。そして、もう清二を傷つけないでやって」
 そう言われると、強く抵抗できなくなった。
「清二はずっと、こうしたかったんだ」
「だ、駄目だ、こんな」
 竹弥は、やはり、完全に抗わないわけにはいかなかった。開耶に触れられるのが嫌というよりも、すでに自分は杉屋や浦部の凌辱を受けて汚れたと思っているからだ。彼らの手の感触を覚えこまされた肌で、開耶に触れられることに激しい抵抗があるのだ。
 自分でもうまく説明できない感情だが、いっそ無垢なままの身体だったら、開耶の想いに流されていたかもしれない。だが、すでに別の男たちの欲望に染まった身体で、開耶の想いを受け入れることはできなかった。
 刹那、たまらない悔恨が胸にわき、刃物のように鋭く深く心をえぐる。
 杉屋に汚されるぐらいなら、なぜ、あの夜、伊吹の情を受け入れてやらなかったのか。あの青春の激しくも切ない息吹の衝動を受け止めてやらなかったのか。
 千回後悔しても、もはやどうにもならないことではあるが……。
 そんな悔恨にひたる暇もなく、開耶の手は意外なほどの強さで竹弥を求めてくる。竹弥は焦った。
「木南、駄目なんだ。俺は、」
「開耶と呼んで。ううん、清二、とでもいい」
 口調は男にしてはひどく柔かなのだが、手は意外にも力強く、熱い。伝わってくる情熱は、彼の秘めた激情と欲望を示しているのかもしれない。
 すぐ目の前に開耶の美しい顔がある。
 外国映画に出てくる美少女を思わせるほどに、日本人ばなれした美貌が、情欲の色に染まって、竹弥をはげしく求めているのだ。
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