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訪問客 八
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「結局、お袋は僕が中学を卒業するころに、べつの男に走ったんで、そいつの親父とも縁が切れて、やっとそんな生活が終わったんですけれどね」
「……そうか」
そんな言葉しか言えない。
「義理の親父は数年後に酔っぱらって車にひかれて死んだそうですよ。兄貴の方は、最後に聞いた噂ではヤクザになったらしいですけれどね」
淡々と語る口調には恨みも憎しみも感じられない。そんな想いを懸けるのも無駄だというように。
「ふうん……」
わざと気のない返事をしてみた。
「先輩」
開耶はふと瞳に光を取りもどす。
「このこと、誰にも言わないでしょう?」
念を押すような口調にも表情にも媚が匂ってくるようで、竹弥は圧倒されそうだった。
「そ、そりゃ、言わないよ。言えるわけないだろう、そんな話」
「ありがとう」
気づいたとき、すぐ目の前に開耶の白い肌があった。その次の瞬間には、唇に生温かい感触がした。
一瞬、触れあったかと思うと、すぐにそれは離れた。
春の光のなかで、舞い散る桜の花びらと花びらが触れあったような接吻だった。
「お、おい……」
ほのかに香る、男とは思えない甘い体臭に酔いそうになる。
「ふふ。お礼です。いろいろ男に変なことされてきたけれど、こんなふうにしたいと思ったのは先輩が初めてです」
開耶は、もしかしたら自分を誘っているのだろうか。だとしたら、自分にはそのつもりはないと伝えねば、とは思う。
「あの、悪いけれど、俺は……」
「いや、初めてじゃないか。二度目ですね。最初にそう思った相手は清二だった」
清二、と告げた言葉に哀切な響きを竹弥は感じとった。
「清二の田舎に行って、家に泊めてもらった夜、一回だけしたんです。寝ていた清二に」
「……」
竹弥は布団の端を握りしめていた。
まざまざとその場面が頭に浮かんできた。
「……そうか」
そんな言葉しか言えない。
「義理の親父は数年後に酔っぱらって車にひかれて死んだそうですよ。兄貴の方は、最後に聞いた噂ではヤクザになったらしいですけれどね」
淡々と語る口調には恨みも憎しみも感じられない。そんな想いを懸けるのも無駄だというように。
「ふうん……」
わざと気のない返事をしてみた。
「先輩」
開耶はふと瞳に光を取りもどす。
「このこと、誰にも言わないでしょう?」
念を押すような口調にも表情にも媚が匂ってくるようで、竹弥は圧倒されそうだった。
「そ、そりゃ、言わないよ。言えるわけないだろう、そんな話」
「ありがとう」
気づいたとき、すぐ目の前に開耶の白い肌があった。その次の瞬間には、唇に生温かい感触がした。
一瞬、触れあったかと思うと、すぐにそれは離れた。
春の光のなかで、舞い散る桜の花びらと花びらが触れあったような接吻だった。
「お、おい……」
ほのかに香る、男とは思えない甘い体臭に酔いそうになる。
「ふふ。お礼です。いろいろ男に変なことされてきたけれど、こんなふうにしたいと思ったのは先輩が初めてです」
開耶は、もしかしたら自分を誘っているのだろうか。だとしたら、自分にはそのつもりはないと伝えねば、とは思う。
「あの、悪いけれど、俺は……」
「いや、初めてじゃないか。二度目ですね。最初にそう思った相手は清二だった」
清二、と告げた言葉に哀切な響きを竹弥は感じとった。
「清二の田舎に行って、家に泊めてもらった夜、一回だけしたんです。寝ていた清二に」
「……」
竹弥は布団の端を握りしめていた。
まざまざとその場面が頭に浮かんできた。
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