翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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訪問客 七

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「最初のころは月に一回ぐらいだったかな。兄貴の連れてきた男……といっても中学生でしたけれど、そいつらの相手をさせられて。そのうち俺のことが不良連中のあいだで噂になって。まぁ、評判になったんですね。女買うより安いっていうんでね。驚くことないですよ。先輩のまわりにはあんまりいないでしょうが、中学生でもそういうことする奴はいっぱいいますよ」
 残酷で異常が話をこぼす開耶の唇が、みょうにつやめいて見える。
「月一回が、週に一回ぐらいになり、やがて週二回。一日おき、そしてほとんど毎日のようになりましたよ」
 到底、真実とは思えなかった。
 あまりにも淫虐な話だというのに、語る当人はどこまでも美しいのだ。それほど過激で悲惨な体験をした人間が、これほど美しく魅力的に見えるものなのだろうか。
 世の中には稀に、男の欲情にまみれて、いっそう魅惑的に美しくなる女もいるというが。それこそ芝居に出てくる阿古屋や総角あげまきのごとく、浮世の泥をかぶった遊女が、汚れを知ってこそ蠱惑的に見えて、男の心を惹きつけるのと同じものなのだろうか。もし開耶が女だったら、そんなけなげな遊女になったかもしれない。
 いや、今、目の前にいる開耶からは、苦界に生きた女の持つしおらしさよりも、ある種の凄みが感じられる。時代下って阿部定か、噂に聞いた横浜メリーか有楽町のお時のように、受けた男の欲望の分だけ、したたかに強くなる類の女にも似ているのかもしれない。
 竹弥は摩訶不思議な生物を見ているような奇妙な心持になってきた。
「な、なぜ……、俺にそんなことを?」
「べつに……。こんな話、クラスの連中にはできないでしょう? 先輩なら聞いてくれるかと思って。それに、先輩、口が堅そうだし」 
 長い睫毛が影を落とした顔にはさすがにかすかな哀愁がきらめく。竹弥はかすかに胸が切なくなった。
 開耶が辛くなかったわけがない。傾城ともてはやされていても、阿古屋だとて、総角だとて、金で買われる我が身を哀しく思わないことはなかったろう。いくら開き直っていたとしても、阿部定やメリーやお時だとて、別の人生を生きたいと、まったく願わなかったと言えるだろうか。そしてまた、かすかに脳裏にちらつくのは母の面影だった。
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