翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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訪問客 六

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 誰もが知る美男役者が、若いころは有力者の御稚児さんだったなどという話は、たしかにざらにある。
 だが、目の前の美少年が、みずから自分の嗜好を認めるとは思わなかった。こうもあけすけに言われると、どう返していいものか迷うのだ。
 ふふふふ……。
 竹弥の狼狽ろうばいぶりが面白いのか、開耶は目を細めて甘い笑い声をもらす。
「赤くなって。先輩、純情ですね。可愛い」
 ますます狼狽うろたえた。純情とからかわれると、胸がちくりとする。自分はすでに清らかではないのだ。
「僕はね……、こういう見た目のせいか、どうも男にもてるらしいんですよ。最初の相手は、義理の兄だった」
 竹弥は目を見張って息を呑んでいた。
「冗談だろう?」
 ゆっくりと開耶は首を横に振る。
「お袋の再婚相手……といっても正式に籍を入れていたわけではないので、内縁の夫というところかな。そいつには僕より四歳上の息子がいましてね。僕は六つ、七つの頃から、そいつに身体をいじくりまわされていましたよ。体中さわられ、そいつのものをこすらされたり、しゃぶらされたり」
 竹弥はひたすら驚いて呼吸をわすれていた。
 この時代は幼児虐待――という言葉すら認識されておらず――は、口に出して語られることは滅多にない。家庭内の問題というのは、つねに秘されて、おもてには出ない。
 だが、ないわけもなく、家という密室のなかで、いたいけな子どもが大人や年長の子どもの欲望に傷つけられることもあったはずだ。
「お母さんは止めてくれなかったのかい……?」
 呆然として訊くと、開耶は笑う。笑いには、ほろ苦さがふくまれていた。
「知らなかったでしょうね。いや、もしかしたら知っていたかもしれないけれど、興味なかったんでしょうよ」
「そ、そんなことは……」
 ない、とは言い切れない。幼かった自分をおいて家を出た母のことが思い出される。
「揉めて、親父との関係が悪くなるのが嫌だったでしょうし。その義理の兄貴っていうのが、またろくでもない不良でね、中学に入るころには、俺に不良仲間の相手をさせて小遣い稼ぎしていたんですよ」
 これほどおぞましい言葉をつむぎながら、開耶の瞳はすきとおるほどに美しく、卵型の顔は、名画のように麗しいのだ。 
 

 
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