154 / 225
訪問客 四
しおりを挟む
「ええ。時々話すこともありました。一度だけ、伊吹……清二の故郷を訪ねたこともあるんです」
清二と名を呼び捨てにしたことに、竹弥は奇妙なものを感じた。
やや伏せたままの顔や目からは開耶の気持ちは読みとれないが、言葉にはどことなく含むものが感じられる。
「それは……、旅行で?」
「というか、清二が実家に呼んでくれたんです」
「へぇ……」
必死に感情を押し殺そうとしたが、開耶の言葉は竹弥にとって衝撃だった。
伊吹の実家へ遊びにいくほど仲が良かったとは。しかも、そのことを清二からは一度も聞いたことがない。
「知らなかったな。そんなに君と伊吹が仲が良かったなんて」
「意外ですか?」
ふふふ……。開耶の笑いはあどけない幼児のようだ。だが、なにか引っかかる。
「僕と清二は趣味が合っていたんです」
「……そうかい。伊吹は詩を好んでいたんだよね」
それも以前、開耶が教えてくれたことだ。伊吹清二がボードレーヌやヴェルレーヌの詩を愛読していたなど、竹弥にとっては意外でふしぎだった。
自分の知らないことを知っている開耶にたいして、少し落ち着かないものも感じる。
そんなことを思っていると、杉屋が盆を持って入ってきた。盆には急須と茶碗が見える。竹弥は内心、冷や冷やした。
「粗茶ですが」
意外なことに、杉屋は丁寧な手つきで盆を置く。今あらためて気づいたが、彼の所作は優雅ですらある。
「あ、どうも」
開耶ははにかむような笑顔を杉屋に向ける。
美しくあどけないような笑みに、どこか、媚めいたものを感じて竹弥はまた落ち着かない気持ちになる。なにか、もやもやしてくる。
「……なんだか、印象的な雰囲気の人ですね」
杉屋が出ていったあとの襖を見つめ、開耶がつぶやいた。頬がうっすら桜色めいて見える。
清二と名を呼び捨てにしたことに、竹弥は奇妙なものを感じた。
やや伏せたままの顔や目からは開耶の気持ちは読みとれないが、言葉にはどことなく含むものが感じられる。
「それは……、旅行で?」
「というか、清二が実家に呼んでくれたんです」
「へぇ……」
必死に感情を押し殺そうとしたが、開耶の言葉は竹弥にとって衝撃だった。
伊吹の実家へ遊びにいくほど仲が良かったとは。しかも、そのことを清二からは一度も聞いたことがない。
「知らなかったな。そんなに君と伊吹が仲が良かったなんて」
「意外ですか?」
ふふふ……。開耶の笑いはあどけない幼児のようだ。だが、なにか引っかかる。
「僕と清二は趣味が合っていたんです」
「……そうかい。伊吹は詩を好んでいたんだよね」
それも以前、開耶が教えてくれたことだ。伊吹清二がボードレーヌやヴェルレーヌの詩を愛読していたなど、竹弥にとっては意外でふしぎだった。
自分の知らないことを知っている開耶にたいして、少し落ち着かないものも感じる。
そんなことを思っていると、杉屋が盆を持って入ってきた。盆には急須と茶碗が見える。竹弥は内心、冷や冷やした。
「粗茶ですが」
意外なことに、杉屋は丁寧な手つきで盆を置く。今あらためて気づいたが、彼の所作は優雅ですらある。
「あ、どうも」
開耶ははにかむような笑顔を杉屋に向ける。
美しくあどけないような笑みに、どこか、媚めいたものを感じて竹弥はまた落ち着かない気持ちになる。なにか、もやもやしてくる。
「……なんだか、印象的な雰囲気の人ですね」
杉屋が出ていったあとの襖を見つめ、開耶がつぶやいた。頬がうっすら桜色めいて見える。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
96
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる