翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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訪問客 三

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 だが今は到底、人と会える精神状況ではない。
「か、帰ってもらってくれ……!」
「悪い。もう上がってもらっている」
 少しも悪いと思っていない顔で告げるや、杉屋は廊下の奥へと声をかけた。
「竹弥が会うそうだよ」
「おいっ……!」
 すたすたと、軽い足音が近づいてきたかと思うと、襖の間から顔をのぞかせたのは、木南開耶だ。
 最後に見たのはそう以前のことではなかったはずだが、竹弥はなぜかたまらなく懐かしい気持ちになった。
 開耶は、はにかむような微笑を向けると、おずおずと室内に入ってきて、竹弥の前に座った。
「こんにちは。あの……具合はどうですか?」
「え? あ、ああ、大丈夫だよ」
 布団に身を起こして、竹弥は必死に身をつくろった。
 浴衣はすこし着崩れているが、それ以外は変わったところはないはずだ、と自分に言い聞かせる。
「まだ体調が悪いんですね? なんだか、心配になってきました。……あの、医者はどう言っているんですか?」
「た、たいしたことはないんだ。ただ、ちょっと疲れてしまって」
 老人のようなことを言っていると思いながら、布団を引き寄せた。ひどく心細い。
 開耶が、ここ毎日自分がされていることを知っているわけはない、と思うのだが、無邪気な少女のような目をした彼を見ていると、どうにもいたたまれない気持ちになってきて、竹弥はつい目を伏せてしまう。
「あの、これ、どうぞ」
 きちんと正座した開耶が竹弥の前に両手で差し出した菓子箱は、竹弥が見たことのない店名が包装紙に印刷されている。どこか地方の菓子のようだ。
「旅行へでも行っていたのかい?」
「ええ……。伊吹先輩の郷里へ。墓参りに行ってきました」
 その名を出されて、竹弥はほとんどぎょっとした。
「そ、そうか……」
 こころもち顔を伏せた開耶は、それこそ雨に打たれて散る桜を思わせて、竹弥はつい魅入られてしまう。
「君は……そうか。伊吹とは付き合いがあったと言っていたね」
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