翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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狂い咲き 四

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「な、何を言っているんだよ!」 
 馬鹿にした覚えはない。ただ、さほど気に留めなかっただけだ。
「おまえのことなんか、知るか!」
「それが、馬鹿にしているというんだよ。ああ、いいさ、そうやってお高くとまっていろ。今日は徹底的に苛めてやるからな」
 変態遊戯の戯言ざれごとでなく、浦部は本当に竹弥に対してある種の恨みを抱いていたようだ。
 相手にされなかった、無視されたという、ほぼ一方的な恨みなのだろうが、この粘着質で妄想に突っ走っている男は、竹弥がただ自分に好意も興味ももっていなかったというだけで、異常な憎しみを持っていたようだ。
 今、まさにその恨みを晴らさんと、欲望にたけった目を向けてきている。
「へへへへ……見ていろ」
「さ、触るな!」
 無我夢中で蹴りあげた竹弥の足が、浦部の頭を直撃した。
 杉屋の笑い声が桜の樹の下にひびく。
「痛ぇ! この野郎、よくもやったな!」
 浦部はおでこをさすりながら、さらに激しい憎悪の目を向けてきた。
 その憎悪のはげしさよりも、細い目に燃える欲望が竹弥をひりませる。
「よ、寄るな!」 
 薄紅の花びらが舞い散るなかで、両手を縛られた美男子と、蛙のように地面に這いつくばっている醜い男のあいだでしばし奇妙な死闘が展開したが、やはり両手の自由を奪われている竹弥は分が悪い。結果が明らかになった。
「うう……」
 竹弥は息を切らしながら、無念に呻いた。
 青い浴衣が背で乱れに乱れ、右足に最後までからんでいた帯紐が流れ落ちる。
 右太腿をつかまれ、引きあげられた。
「よ、よせ!」
 浦部が額に汗をにじませ、太い指で下着をまた引っぱる。
「け、こんないやらしい下着つけときながら、お高くいばりやがって。このオカマが!」
 激しく罵りながらも、次の瞬間には、浦部の欲に濁った目は、竹弥の白い肌に魅入られたように恍惚となった。
「はぁ……、これから、たっぷり、してやるからな」
「はぅっ!」
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