翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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孤城の落月 八

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 朦朧とした意識のまま、竹弥は誰かが自分の身体を抱きかかえたことを感じた。
 戒めをほどかれて、身体がすこし楽になった。
 だが、竹弥は知っていた。これは救済ではないことを。
 このあとも、やはり拷問のような責めがまた続くのだということを、すでに肉体が予想していた。
 竹弥の恐ろしい予感は当たることになる。

 しばしの休息をあたえられ、身体を清められ、眠ることがゆるされても、時がたてば、またおぞましい責めが再開される。
「そろそろ、浦部の望みをかなえてやらないとな」
 夜、後ろから幼児のように杉屋に抱かれていた竹弥は、その言葉に恐慌をきたした。
「や、やめてくれ! それだけは、止めてくれ!」 
 杉屋は愉快そうに笑った。
 ちょうど竹弥は、湯につかったばかりの身体に、杉屋によって浴衣を着せられようとしていたところである。藍色の浴衣は、竹弥のほんのりと上気した肌をより映えさせる。湯上りの匂うようになまめかしい肌が、困惑して焦った表情になることで、さらになまめかしさと色気を増し、杉屋の目をいっそう楽しませていることに竹弥は気づかない。
「浦部はおまえに憧れているらしいぞ。あんな綺麗な人は見たことがないと言っていた。どうやら奴は、男に興味があるようだな」
「……」
 そんな噂を、実は竹弥も聞いたことがある。
 いや、浦部は女も好む。実家が都内で生活には苦労していないらしいが、アルバイトに精を出しては、その金で夜の女を買っているという。だが、男も好きなのではないか、とつねづね噂されていた。  
 かなり好色な質なのは間違いない。
 マルキ=ド=サドの小説を堂々と愛読し、人は誰しも加虐か被虐の嗜好を持っているのだ、と平然とうそぶく。変人とは認知されていても、周囲からさほど嫌悪されないのは、その飄然ひょうぜんとしたところだろう。
 助平なのも、あそこまでいけば天晴あっぱれだよな、とある同級生は笑っていた。当人は、卒業後はポルノ雑誌の編集にたずさわりたい、とこれまた真顔で言う。そういう男である。
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