翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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孤城の落月 七

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「はぅ……!」
 竹弥はあまりのことに背を畳にこすりつけるようして、どうにかして、襲ってくるこの異常な官能の波濤をやり過ごそうとした。
 迫りくる快楽も恐ろしいが、なにより、自分が文字どおり犬畜生の機嫌によって翻弄されているという事実に、とてつもない屈辱を感じる。
 杉屋と浦部の面白そうな笑い声。
 許容できない恥辱と侮辱に、竹弥は発狂しそうになった。
 そして、この異常なまでの屈辱的状況に、さらにいっそう心身が燃えたかぶっている現実が、竹弥を狂気へと追い詰める。
 なぜ、舌を噛みきらないのか。なぜ、気が狂ってしまえないのか。竹弥は本気でそう思い、死ぬことも狂うこともできない我が身をいっそう恨んだ。
 精神錯乱を起こす一歩手前まで追い詰められていたのかもしれない。
 そして、またその状況に燃えていく身体が憎い。 
 はかりしれない羞恥と、それゆえに感じてしまうとてつもない悦楽。まさしく魔悦だった。
 見えないはずの犬の牙と爪が竹弥の精神を切り裂いていく。
 止まることなく、激しく感じつづける異様な感触。これが本当にたまらなかった。
 肉体の中心は、たぎるように燃えていた。敷かれていたタオルに湿り気を感じる。
 体内に埋めこまれていた道具が、引きずりだされそうになった。
(い、いやだ……!)
 そんな想いが頭のなかで弾けた瞬間、竹弥は腰に力を込めていた。
 決して、道具を外に出さないように。
 淫らな道具を犬に奪われまいと、必死になっている自分はなんと浅ましく滑稽なのだろう。目尻に涙がつたうのを感じた。
 同時に、はげしい興奮が全身をつらぬく。

「ああっ……あああっ、あー!」
 悶え、喘ぎ、のたうち抜いたあげく、竹弥は最も恥ずかしい姿を晒すことになった。
 絶頂に、一瞬気を失っていた。

 意識がとぎれる寸前、竹弥は笑い声を聞いた。
 杉屋や浦部の声だったろうが、他の声も聞こえた。
 嘲るような声がかさなりあって鼓膜にしのびこんでくる。

 ふたたび気づいたときは、黄楊の道具は、こぼれ落ちており、体内にはなかった。
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