翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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孤城の落月 六

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 自分の身体は本当におかしくなってしまっているのだ。いたぶられることに、興奮して、快を求めだしている。
 普通ではない。もはや、自分は普通の身体ではなくなってきているのかもしれない。
 あらためて、恐怖と絶望に竹弥は泣いた。
 だが、身体は熱くなる一方だ。
 クィーン、という犬の鳴き声がのどかに聞こえてくる。杉屋の笑い声や、浦部の声も。他の職人たちは、仕事に取り掛かっているらしい。
「名前はなんていうんだい?」
「太郎ですよ」
「月並みだな」
「でも柴犬には似合っているでしょう?」
「よしよし、いい子だ。ほら、おやつにこれをあげよう」
 犬の鳴き声がまた響いたかと思った刹那、竹弥は腰から背骨に衝撃を感じた。
(え? あっ、なに?)
 杉屋がなにか餌を、肉のついた骨のようなものを与えたらしい。
 まさか……、と竹弥は恐れふるえた。
 だが、やはりそうだった。
 その肉骨は、あろうことか、竹弥をもてあそぶ紐先につなげられているのだ。
「はぅ……!」
 脚がびくびくと震える。竹弥は悲鳴をあげそうになった。
 浦部の嘲笑が晴天の庭から響きわたり、竹弥の鼓膜に突きささる。
「杉屋さん、性悪ですね。あげるなら、あげればいいじゃないですか? 馬の鼻先に人参ぶら下げているみたいですよ、それじゃ」
「ちょっとした運動になるだろう? ほら、太郎、旨そうだろう? がんばれ!」
 状況がますます想像されるにつれ、竹弥はおぞましさに悲鳴をあげそうになった。
「ああ、やめっ、やめろ……」
 思わずもらしてしまった声は、幸い犬の激しい鳴き声に消えて、外にいる浦部の耳には聞こえないだろう。
「ほらほら、もっと跳ねてみろ。肉に届くぞ。ほら、もう少し」
 獣が、爪か牙でも必死に伸ばしたのか、とてつもない振動が股間に伝わってくる。
 人が意図してつくるものとは違う、想像を超えた動きの波は、いまだかつてない刺激を竹弥の身体と脳におくってくる。いや、たたきつけてくる。
「はぅ……!」
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