翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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孤城の落月 四

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 最後の言葉はつぶやくような口調になっていた。
「そんなことを言っても、もうおまえはここから逃げれないさ」
 ぞっとするほど杉屋の声は優しい。
「おまえはな……、もうここから二度と出ることはできないのさ」
「な、なに言っているんだよ?」
 竹弥はひるむ心を叱咤して、杉屋の視線をはねのけようとした。
「おまえはな、もう、この屋敷の一部なんだよ」
「なにを馬鹿なこと言っているんだ? ふざけたことを言うなよ」
 杉屋は笑っているが、冗談を言っているようではない。本気で、そう思うことを思うがままに口にしているようだ。
「この屋敷に、おまえは望まれたんだよ。選ばれた、といってもいいかな」
「……どういう意味なんだよ」
 言わんとするところがさっぱり解からず、竹弥は涙の跡ののこる頬を引きつらせた。
「まぁ、今すぐは理解できなくてもいいさ。だが、おいおいわかってくる。おまえは、この屋敷から逃げることはできないんだよ。おまえがこの屋敷に来たのは、運命に導かれてのことさ。もう、ここから離れられない。俺と同じようにな」
 ほろ苦いとすら表現されるような、微妙な笑みを杉屋は見せた。いつもと、どこか違う雰囲気をにじませていることが竹弥を躊躇させる。
 言葉を失いそうになりながらも、竹弥はなんとか言いつのった。
「お、俺はこんなところにいない……」
「ああ、せいぜい意地を張るがいい。そのうち、もうこの屋敷から逃げれないことが自分でもわかるさ」

 杉屋の手管と責めは、ますます激しくなっていった。そして、淫靡かつ淫虐であった。
「うう……」
 今日は、竹弥は和室に大の字になって横になることを強要された。
「うう……」
 両手首は万歳のかたちにされてそれぞれ縛られ、紐縄の先は座卓の脚にきつく結ばれている。弁柄べんがら色にしっとり濡れたような長方形の花梨かりん造りの座卓は、大人が一人乗ってもびくともしないほどに、どっしりと重く頑丈で、竹弥がどれほどもがいてもびくともしない。
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