翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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孤城の落月 二

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 クイ、クイ、とさらに小さな波をともなって紐が揺らされる。
「ああ……」
 先日のように股間を戒めるものはない。もう少し、杉屋が力をこめて引っぱれば、異物は抜け落ちるだろう。
 だが、そこを見計らって男は紐を引く力を調節しているのだ。
 そして、竹弥は、まるでその揺れに抵抗するかのように、いや、対応するかのように下肢に力を入れてしまう。
 まるで、後ろ園を埋める黄楊の道具を、わたしたくない……と肉が叫んでいるかのようだ。
「あんな別嬪の息子に会ってみたいもんだねぇ。お袋さん似なら、さぞいい男なんだろう」
 親方使う鋏の音につづいて、若い方の声が響いてくる。 
「そりゃ、すごい美形だよ」
「なんでぇ、しん、おまえ見たことあるのか?」
「学校が一緒なんだよ」
 その言葉に、竹弥の心臓は止まりそうになった。
「へぇ、じゃ、おまえ、貴蝶の息子さんを見たことあるのかい?」
「あるもないも、おなじ学部だし、寮でも顔を合わせたことが何度かあるさ」
 このとき、竹弥は全身に冷や水を浴びせられた気がした。心臓が凍りつく。
 そうだ。たしかにこの声、聞き覚えがある。
 慎、と呼ばれていた。彼だ。浦部慎一うらべしんいちだ。
 彼のずんぐりした体格や、あばた面、黒縁眼鏡を思い出した。醜男ぶおとこではあるが、愛嬌があり、それなりに友人はいた。将来作家になりたいというだけあって、大変な読書家だという。だが、その読書の傾向が変わっていたので印象に残っているのだ。
 竹弥は、学友がすぐ外にいる恐怖に全身が震えだした。
「もっとも、今は休学中で会ってないですけどね。へぇ、このお屋敷に住んでいたとは。やっぱりお坊ちゃんなんだな」
「会っていくかい?」
 身がすくむ。思わず悲鳴をあげそうになったが、かろうじて堪えた。
「え? 会えますか?」
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