120 / 225
孤城の落月 一
しおりを挟む
「弟の方は、やっぱりおふくろさん似ですか?」
若い声が問うと、杉屋が返す声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「ああ、生き写しだ。あの顔見ると、母親を思い出すだろうね」
「銀幕のマドンナかぁ。いいねぇ。俺、子どものころ見た貴蝶の顔、まだ覚えてるよ」
「ありゃ、まさに傾城だったな」
親方の懐かしむような声が、竹弥の鼓膜に針束となって突き刺さる。肌寒さなどまるで気にならず、額にも背にも汗を感じていた。
しかも、杉屋は悪戯をやめない。
紐がまた引かれた。
(うっ……)
寸でのところで声を殺したが、体内の道具は微妙に動きつづける。
「あっしは、むかし貴蝶の舞台を見たことがあるんですよ」
「へぇ。なんという芝居なんだい?」
「題は忘れましたが、たしか千姫の役をやっていましたよ。あのときたしか十五、六ぐらいだったかねぇ」
「ああ、そりゃ、親方、『沓手鳥孤城落月』ですよ」
若い声が口をはさみ、坪内逍遥原作の芝居の名を告げる。
「おお、おめぇ、さすがに学があるな。あのときは本当に可愛らしかったですね。後に、淀君を演じたときは、迫力があったねぇ」
『沓手鳥孤城落月』は、関ヶ原の戦のおりの大阪城を舞台にした物語で、当時十六歳だった母貴蝶はこの芝居で千姫を演じて好評を得、子役から卒業した。その十数年後、おもしろいことに偶然、おなじ芝居で淀君を演じることになる。『チャタレイ夫人』に出演するすこし前のことである。
往時の自分の母を知る人間が、すぐそこにいる。今、こうして、異常な状況に置かれ、尻に淫らな道具を嵌められて、もだえている自分はまさに悪夢を見ているとしか思えない。竹弥は、いっそ気を失えれば、と願いすらしていた。
杉屋の微妙かつ巧妙な責めは、ますます露骨になっていく。
「あっ……」
少しでも油断すると声が漏れそうになる。
竹弥は頭を畳にこすりつけるようし、自然、臀部を突き出す格好を取っていた。
なんという浅ましく淫らな姿。こんな仕打ちを平然とする男を、自分をここまで堕とした男を竹弥は心から呪った。
若い声が問うと、杉屋が返す声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「ああ、生き写しだ。あの顔見ると、母親を思い出すだろうね」
「銀幕のマドンナかぁ。いいねぇ。俺、子どものころ見た貴蝶の顔、まだ覚えてるよ」
「ありゃ、まさに傾城だったな」
親方の懐かしむような声が、竹弥の鼓膜に針束となって突き刺さる。肌寒さなどまるで気にならず、額にも背にも汗を感じていた。
しかも、杉屋は悪戯をやめない。
紐がまた引かれた。
(うっ……)
寸でのところで声を殺したが、体内の道具は微妙に動きつづける。
「あっしは、むかし貴蝶の舞台を見たことがあるんですよ」
「へぇ。なんという芝居なんだい?」
「題は忘れましたが、たしか千姫の役をやっていましたよ。あのときたしか十五、六ぐらいだったかねぇ」
「ああ、そりゃ、親方、『沓手鳥孤城落月』ですよ」
若い声が口をはさみ、坪内逍遥原作の芝居の名を告げる。
「おお、おめぇ、さすがに学があるな。あのときは本当に可愛らしかったですね。後に、淀君を演じたときは、迫力があったねぇ」
『沓手鳥孤城落月』は、関ヶ原の戦のおりの大阪城を舞台にした物語で、当時十六歳だった母貴蝶はこの芝居で千姫を演じて好評を得、子役から卒業した。その十数年後、おもしろいことに偶然、おなじ芝居で淀君を演じることになる。『チャタレイ夫人』に出演するすこし前のことである。
往時の自分の母を知る人間が、すぐそこにいる。今、こうして、異常な状況に置かれ、尻に淫らな道具を嵌められて、もだえている自分はまさに悪夢を見ているとしか思えない。竹弥は、いっそ気を失えれば、と願いすらしていた。
杉屋の微妙かつ巧妙な責めは、ますます露骨になっていく。
「あっ……」
少しでも油断すると声が漏れそうになる。
竹弥は頭を畳にこすりつけるようし、自然、臀部を突き出す格好を取っていた。
なんという浅ましく淫らな姿。こんな仕打ちを平然とする男を、自分をここまで堕とした男を竹弥は心から呪った。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説



ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!


朔の生きる道
ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より
主人公は瀬咲 朔。
おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。
特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる