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桜散華 十

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(なぜ……俺がこんな目に遭わないといけないんだ……)
 閉じている瞼にまた涙が滲む。
「では、このあたりの手入れから」
「ああ、頼むよ」
 そんな話し声が聞こえる。
 竹弥は屏風の影で、子どものように膝を折って座りこみ、小さく身をすくませた。後ろで手を縛られているので、苦しい体勢だ。
 目を閉じ、なるべく外の世界を意識しないように努めたが、突然、腰に波打つような刺激を感じて驚いた。
 後ろの園に嵌めこまれた道具が震えるのは、紐が引っぱられているからだ。
「あっ……」
 声がそれ以上漏れるのを必死にこらえた。
「いやぁ、今年も見事に咲いていますねぇ」
 暢気な職人の声が聞こえる。それに対して、なにか応えている杉屋の声も。
(うっ……)
 会話の声につづくように、さらにまた体内の異物が揺さぶられる。
 杉屋が紐先をいじっているのだ。
 竹弥は身震いした。
 クイ、クイ、というふうに、紐がたびたび引っぱられるようになった。
「はぁっ」
 畳に座っていられなくなり、竹弥は腰を浮かして震えた。そのあいだも、微妙な動きが紐を通して竹弥の秘めた場所へととどく。
 頬が上気してきた。
「ああっ……」
 縁側へとつづいている紐が揺れる。体内の道具がうごめく。
 息があがるのを、竹弥はおさえきれない。
 鋏みの動きをつたえるような金属的な音が庭から聞こえてくる。
「ところで、こちらのお屋敷には、今、御客人がいるそうですね。なんでも、近江小三郎の息子だっていうじゃないですか? 伊能さんから聞きましたよ」
 親方らしき男の声。
 こんな異常な状況で父の名を聞き、緊張のあまり竹弥は身体が凍りそうになった。
「今は出かけていて留守だがね」
 杉屋の声に、わずかながらも安堵する。
「へぇ。あの、時代劇に出ていた二枚目ですかい?」
「それは兄の方。預かっているのは弟の方だ」
「なんでも、たいした美少年だそうで」
「親方の口から美少年なんて聞くと、笑うな」
 べつの職人らしき若い声が横やりを入れた。
 竹弥は絶え間なく襲ってくる揺れに突っぷした。羞恥のあまり気が遠くなりそうだ。
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