翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
116 / 225

桜散華 七

しおりを挟む
「はぁっ! あああっ!」
 世界が暗転していくような快楽のなかで、竹弥は全身を張りつめて、向かうところひとつにすべてを賭けた。
「あっー……」
 数秒、竹弥は意識を手放していた。
 杉屋の悪魔のような嘲笑が室に響く。
「まったく感度がいいな。これからますます仕込めそうだ」
 気を失っていた竹弥の耳には、幸いにもその言葉はとどかなかった。

 そんなふうにして、桜御殿での悪夢のような調教の数日は過ぎた。
 絶え間なく道具で責められ、嬲られ、男として人としての自尊心を踏みにじられ、竹弥の精神は追い詰められていった。
 だが、杉屋はさすがに限界を見きわめているのか、竹弥の心が身体から離れてしまいそうになると、手をゆるめ、竹弥を休ませ、介抱する。
 食欲のない口に粥をそそぎこまれ、汚れた身体を清められ、清潔な衣類をあたえられ、かいがいしいような手つきで世話をされていると、それも悪魔の手管だとわかっているはずなのに、別の意味で竹弥の心は弱くなる。
たぶらかされるものか……)
 意識が定かになると常に竹弥は己に言い聞かせた。
 せめぎあいのような数日が桜吹雪につつまれた屋敷のなかで過ぎていく。

 竹弥は地団太踏んだ。いつもの和室である。
 快晴のその日、おだやかな陽光が和室にも滲み込んでくるが、竹弥の心には怒りの嵐が吹き荒れている。無理もない。
「ほどけよ、これを!」
 竹弥は先日されたように、ほぼ全裸に剝かれて、手を後ろで縛られていた。下着すらうばわれた下半身を覆うのは靴下だけという恥ずかしい姿のうえに、胸も股間も亀甲のかたちに縛られている。今日の紐は血のような紅色である。
 泣き出したいのを堪えて、竹弥は怒鳴りつけた。
「本当にいい加減にしろよ、この変態!」
 そんな竹弥の様子を、杉屋はさも面白そうに腕を組んで見ている。過酷な調教や凌辱にも決して屈しない、この美しく誇り高い虜囚を見るのは、杉屋にとって最高の余興なのだろう。
「おっと、静かにしていろよ。今日は人が来るんだぞ」
 その言葉に竹弥は驚愕した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

朔の生きる道

ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より 主人公は瀬咲 朔。 おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。 特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...