翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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桜散華 五

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 涙ぐみながらも、竹弥はその後のことをした。
 真鍮の取っ手の根本に引っ掛けた紐を、口でくわえて、引っぱってみる。
 箪笥が、竹弥の動きにあわせて軋むような音を発するが、竹弥は止めることができないでいた。
 口で、取っ手にひっかけた紐を引っぱることによって、先ほどまでの、ただ首を動かすだけの刺激とは、また違う刺激が脳を焼く。紐が引っぱられる角度がかすかに変わったせいだ。
 後ろ手にしばられた蝋人形のように白い身体が、浅ましく動く。美しい竹弥が、口で紐を引っぱり、それに合わせて腰を突き出すようにしている姿は……、滑稽であり、卑猥であり、まともな人間が見れば、とうてい正視に耐えられないだろう。だが、その横顔は芸術的に美しい。
 ほんのりと頬を羞恥の色に紅く染め、悔しげに紐を口でくわえて引っぱる顔は、大きな緋色真珠のごときである。
 しなやかな身体で中腰の姿勢をとり、悦をもとめて、人であることをあきらめた竹弥の姿は、哀しい殉教者のようでもあれば、魔に染まっていく堕天使のようでもある。
「ううっ、うううっ、うー」
 ほとんど自傷行為にちかい複雑な自慰行為をつづけているうちに、竹弥の横顔も、その姿も、官能の色に染めあげられ、ますます美しく輝いていくことを、竹弥自身は知る由もない。
 竹弥の切ない努力は、たしかに成果をもたらした。
「ふぅ……」
 紐をくわえたまま、竹弥は迫りくる愉悦に身をゆだねようとした。
 あと少し……あと少しで……。
 だが、そのあとのことは考えいなかった。
(あ、駄目だ……。このままだと……)
 このままでは、はしたない真似をしてしまう。それを杉屋に知られたら……。
 そう思うと、竹弥は、快楽に身をまかす最後の瞬間に踏みとどまってしまった。
 だが、理性でねじ伏せるには、身の内の炎はすでに不可能なところまで燃え盛っていた。
「うう……」
 懊悩に、犬のように紐をくわえたまま、身をよじった瞬間、声が響いてきた。
「どうした? 遂けよ」
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