翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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綱渡り 九

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 子どもながら、懊悩と苛立ちに竹弥がもどかしく地団太踏みたい気持ちになったとき――刹那、なにかが竹弥のなかで壊れた。
 いや、生まれた、と言っていいかもしれない。  
(あ……)
 それは、未知の情感だった。
(なんだか、変だ……)
 それが春情というものだと知ったのは、翌年、中学生になって図書室でこっそり辞書を繰ったときだ。
 その日、そのあと、どうやって家に帰ったかも竹弥は覚えていない。
 覚えているのは、その夜、生まれて初めての夢精を経験したことだ。 
 五人の少年が一人の娼婦をいたぶるという、陰湿で嗜虐的な行為を目の当たりにして、竹弥は生まれてはじめて性的興奮を得たのだ。 
(ああ!)
(おまえら、女のここ見たの初めてだろう?)
(あるぜ)
(へー、じゃ、これが何だか知っているのか?)
 女の悲鳴が聞こえた。
(これがおさねだ)
(へぇ……)
(ここを、こうするとな、)
(ひぃっ……!)
 うつつのことだったのか、妄想だったのかさえ、今となっては定かではない。
 だが、聞いていてはいけない、いけないのだと、いくら幼いがゆえにまっすぐな理性で自分をいさめても、竹弥はそこで聞いていたにちがいない。   
 今ならわかる。竹弥はあのとき女の肌や肉体に春情をおぼえたのではない。その場でくりひろげられた残酷で加虐的な行為に、春の目覚めを刺激されたのだ。
 いや、あれは加虐だったのか……。もしかすれば、逆の感情だったのかもしれない。
「なんだ、なにを考えているんだ?」
「うっ……!」
 いきなり右の胸を、服の上からつぶれんがばかりにつかまれ、竹弥は苦痛に悲鳴をあげた。
「どうした、そんなぼんやりした顔をして。俺の手管てくだが物足りないのか?」
「な、なにが手管だ! こ、こんなことしかできないくせに」
 男は眉を丸めて、笑った。
「これから、どんどん良くしてやる。ほら、動け」 
 ぱしん、と下着の上から臀部をはたかれるのもかなりの屈辱だった。
「いいか、紐をはさんで、擦りつけるようにして腰を動かしてみろ」
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