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異世の果てで 七

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 杉屋が追ってきたのだ。
「待て!」
 竹弥はあわてて走り出した。走りづらい小さな日本庭園を走り、どうにか、門が見えるところまでたどりついた。
「こら、待て!」
 背後から杉屋が追ってくるが、辺りにはびこる樹の根や、石灯篭、つくばい、竹垣などの添景物が、つぎつぎと杉屋の邪魔をする。竹弥よりかなり大柄な杉屋にとっては、それらはとんだ障害物だった。くわえて飛び石のつづく地面は走りづらい。竹弥にとってもおなじだが、杉屋にくらべると若く小柄な分、竹弥は敏捷だった。
 だが、いくら身軽な竹弥でも、すぐに塀を超えるのは無理だ。
 幸い、正門はちょうど人が一人通れるほどに開いていた。まさに天の助けだ。もし閉じていたら、開けるために時間をとられ、間違いなくつかまっていたろう。
「待て、こら、あとでたっぷり仕置きをしてやるからな!」
 後ろからそんな声が迫ってくる。
 だが、前には文字どおり希望の門が小さくとも竹弥のまえにひらけている。
(あそこまで行ったら……)
 あと少し。あと数歩で、竹弥の身体は門を抜けて、自由な世界へといける。
 あと、一歩! 竹弥がそう思った瞬間、信じられないことが起こった。

 門が閉じたのだ。ひとりでに。
(そ、そんな!) 
 風もない夜である。いや、多少風が吹いていたとしても、それで動くような小さな門戸ではないはずなのに。
「う、嘘だ! そんな、そんな!」
 竹弥は拳で必死に木造の扉をたたいた。
 だが、開くはずの扉がびくともしない。
「嘘だ! ああ、誰か、誰か、開けてくれ!」
 叫ぶ竹弥の口は、背後から伸びてきた大きな手に封じられる。
「ううっ……!」
「まったく、本当にたいしたじゃじゃ馬だな、おまえは!」
 春月夜に、その声は地獄の底から響いてくるほどに恐ろしく聞こえた。
「本当に困った坊主だ。これから、たっぷりお仕置きしないとな」
 杉屋の声は楽しそうである。
「うう!」
 いきなり股間を鷲掴わしづかみにされて、竹弥はのけぞった。
「ほら、行くぞ」
「ああっ」
 横抱きにかかえあげられた竹弥は、古典物語に伝えられる、鬼にさらわれた姫君のようで、見る者があれば、芝居の一幕かと錯覚するほどに、美しく、幻想的な光景だった。 

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