翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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異世の果てで 三

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「そ、そうなんですか……」
 ますます逃れようなくなってきた我が身の窮状を感じて、竹弥は眩暈めまいがしそうになった。本当に貧血を起こしそうだ。
「どのみち、この家の管理は、あんた一人では無理やろうから、通いで家政婦を雇った方がええんやないかと思っていたところで。あれがいてくれるなら、こっちも安心ですさかいな」
 口数がおおくなると、老人の関西訛りも強くなってくる。
 竹弥はなんとかして断らねばとは思うものの、うまい言い訳が出てこない。 
「ごめんください」 
 そんなときに、玄関から聞き覚えのある声が響いてきた。
「あの、上がっていいんでしょうか?」
 問いかけている相手は、おそらくは外にいる杉屋だろう。その声の主が誰か気づいて竹弥はいっそう緊張した。
 廊下を歩く軽やかな足音がして、また聞こえてきたのは、まぎれもなく、開耶の声だった。
「あ、お邪魔でしたか?」
「いえ、じきに帰ります。竹弥さん、お友達が来てくれましたで。……生憎ですが、竹弥さんは今、具合が悪うて、お会いできへんのですわ」
「あ、それはすいません。僕、近江先輩とおなじ学校で……いろいろお世話になっています」
 屏風の向こうでそんなやりとりが聞こえてくる。
「……先輩、大丈夫ですか? 僕ったら、こんなときに遊びに来てしまって……すいません」
 開耶まで老人に習うように、屏風ごしに声をかけてくる。
「あ、ああ。すまない、すこし具合が悪くて。すまないのは、こっちだよ」
 竹弥は布団の端をにぎりしめていた。
「先輩、一人暮らしなんでしょう? 看病してくれる人はいるんですか? もし、良かったら、僕が」
 気づかわしげな開耶の声に井上老人が滔々と答えた。
「大丈夫ですやろ。今ちょうどそのことを話してたんですが、家政婦がわりに住み込む者が決まりましたんで、その人が側にいてくれますよって」
「そうですか? それなら、安心ですね」
 安心したような、やや残念そうな開耶の声。
 開耶のあまりの無邪気さに、叫びだしたくなるのを竹弥は必死にこらえた。
「あの、つまらないものですが、これ、どうぞ」
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