翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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紫縄遊戯 九

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 そして――ついに、最後の一瞬が訪れた。
 さすがにこれ以上焦らすと、本当におかしくなりそうだと踏んだのか、杉屋はやっと許しをくれた。
「よし。いいぞ」
 素直になった仔犬に餌をほうりなげるような口調とともに、杉屋が紐を解きはなつ。
「ああっ、あー、だ、駄目だ、は、はなれて!」
 杉屋の笑い声がかすかに竹弥の耳にひびく。
「は、はなれてくれ……!」
 この期におよんでも、慎みと奥ゆかしさを捨てきれないでいる竹弥の、いじらしいような頼みは完全に無視される。
「今更、体裁ぶるな。ほら、」
 杉屋は、そそのかすように最後の刺激をあたえた。だが、竹弥はやはり抗ってしまう。
「も、もぉ、本当に、駄目!」
「いいんだ。俺の顔めがけて、やれ」
「ああ! そ、そんな!」
「いつまで良い子ぶっているんだ? ほら、恨みをこめて放ってみろよ」
「ああ、知らない……、もぅ、知らない!」
 女のように、子どものように泣きじゃくりながら、ついに竹弥は己を解放した。
 緋色真珠のように、ほんのり紅く染まった若い肉体が、しなる。

「ああ!」
 絶望と満悦が入りまじった、ふしぎなほどに美しい声が和室に響きわたった。
 その瞬間の竹弥のすがたは、竹弥自身は知ることはないが、磔刑たっけいにされた殉教者のようで、ほとんど崇高にさえ見え、芸術的なまでに美しかった。杉屋が讃嘆せずにおられなかったほどに
「すごいな……」
 竹弥の恥辱と生の証しをそのまま顔に受け、あさましく濡らしたまま、杉屋はほとんど呆然となって、竹弥の淫らすぎて麗しすぎる身体を見上げていた。
 なにより、杉屋を感嘆させたのは、その表情だ。
 目をつむって別の世界へ逃げてしまっているような顔付きだが、そこにはまぎれもなく求めつづけた果てに欲しいものを得た満足感が否応なしに現れており、写真に収めなかったことを後に杉屋に後悔させたほど妖艶かつ艶麗だった。

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