翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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紫縄遊戯 一

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「わかったな? わかったらいい子にしていろ」
 否定しようにも肯定しようにも、どのみち口を封じられているので返事はできない。相手も訊こうとはしない。どうせ答えはわかっているのだ。
「自殺して逃げることもゆるさんからな。もし、自殺なんぞしてみろ、やっぱり写真をばらまくからな。そうなったらおまえの親父も兄貴も世間に顔向けできなくなるぞ」
 はげしい戦慄が竹弥の全身に走る。
「舌噛んでやる、などと俺に生意気なことを二度と言うなよ。……わかったか?」 
 竹弥はほとんど無意識で首を上下に振っていた。涙がぽろぽろ頬をつたう。
 だが……若い下肢の昂りは衰えないのだ。それが竹弥には一番つらい。
「ようし。それなら、ほどいてやるぞ。口の方はな」
 しゅる――、という妙に小気味よい音がして、猿ぐつわがほどかれる。
「はぁ!」
 口のなかに押し込められていた布もやっと出され、竹弥はしばし咳込んだ。 
「ふん」
 竹弥の唾液で湿った白い布のかたまりに一瞬目をやって、杉屋はそれを畳の上に無頓着むとんちゃくに放り投げた。
 ようやく咳がおさまったかと思うと、臀部に奇妙な感触が迫っていることに竹弥は気づいた。
(え……?)
「動くなよ。うまく縛れない」
「あっ、やっ!」
 杉屋は竹弥の前にかがみこんで、先ほどまで竹弥の口をしばっていた紐を、竹弥の股の間に通そうとしていた。 
「あっ、ちょ、ちょっ……」
 あまりのことに竹弥は狼狽した。
「そんな、そんな!」
 竹弥の目に、杉屋の頭部が見える。具体的には彼が何をしているのかは見えないのだが、敏感な肌が迫りくる脅威を感じて焦った。
「や、……よ、よせ!」
 杉屋は慣れた手つきで、雅やかな紐を竹弥の脚の間に遠し、捻るようにして、どういうふうにしてか、腰に紐をまわし、ちょうど下帯を締めるような形で戒めていく。
 竹弥は羞恥のあまり硬直した。
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