翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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淫夢炎上 七

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 杉屋の感心したような呟きに、いっそうの羞恥をあおられ、竹弥は切なげに首を振った。
 うなじから、匂うばかりの色気が立ちのぼるのを、当の竹弥は気づかない。
「いいぞ。その苦しげな表情。なんともえいない風情があるな。まさに落花無残だな」
 揶揄と賞賛の入りまじった杉屋の言葉を聞きながら、竹弥は気が遠くなりそうだった。
 あまりの屈辱と苦痛に、頭が朦朧としてくる。こんなあられもない格好を写真に撮られてしまった自分は、もはやこの先普通に生きていけない気がする。
 芝居や物語に出て来る、狼藉を受けた姫君の絶望感はこんなものなのかもしれない。
 この後、自分はどうなろのだろう……?
 果てしなく続くようなシャッター音を、ぼんやりと聞きながら竹弥は自問した。
 写真をネタにして、まちがいなく杉屋はゆすってくるだろう。単に金品ではなく、竹弥の服従を求めてくるはずだ。
 そして、竹弥は蜘蛛の巣にひっかかった蝶のように、逃れるすべもなく、永遠にこの異常な男に囚われることになるのかもしれない。おそらく、そうだろう。相手は、竹弥の弱味を握ってしまったのだ。
 しかも竹弥の場合は、自分一人の問題ではなく、家族や家も巻き込んでしまうのだ。家族のことを思うと、自殺して逃げだすこともできない。杉屋がこの写真をばらまけば、父や兄は一生消えない醜聞をまたかさねることになるのだ。
 逃げることも、死ぬこともできない。
 それなら、いっそ狂いたい――。絶望的な想いに、猿ぐつわをされていても、こらえきれない嗚咽がこぼれる。
「なんだ、泣くなよ。馬鹿だな」
 頬をとめどなく伝う涙を、杉屋の人差し指がぬぐった。
「うう……」
 酷薄そうな杉屋の双眼に、一瞬の潤いのようなものが滲む。
「竹弥が一番美しいのは、泣いているときだな」
 名を呼ばれたのは初めてだった気がする。
「うう……」
「可愛い」
 熱い舌先が、竹弥の耳朶あたりに触れてくる。
「もっと美しくなるようにしてやるよ。もっと、おまえの綺麗な姿を写真に撮ってやりたい」
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