翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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朝桜心中 四

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 ひどく身体がだるい、と思ったら、腕を引っ張り上げられるかたちで立たされていたのだ。身をよじって身体をひねって、竹弥は自分の置かれた状況を必死に理解しようとした。
 緋色の縄のようなもので両手をしばられ、その紐先は、床の間の上部となる落ち掛けのところまで続いている。驚いたことに、床の間の落ち掛けの部分に、小さな滑車のようなものが取り付けてあるのだ。
 そしてさらに紐は、床柱に縛りつけられている。柱は床の間に接しており、床の間を割るようにある仕切の壁は、風流にも、蓮の形に窓のように空洞になっているので、滑車を通って、その空洞を通すかたちでしっかりと縛れているのだ。
 状況を把握して、竹弥が一番驚愕したのは、下半身が剝きだしにされていることだ。
「なっ……! こ、これは……!」
「お、気が付いたか?」
 向かい合うようなかたちで、そこに杉屋が立っていた。
「な、なんなんだよ、これは!」
 竹弥が驚いたのも無理はなく、下半身は靴下以外はすべてうばわれ、シャツはボタンがほとんど外されており、胸や腹がかすかに見えている。
 光のほとんど射さない奥室で、戒められ、羞恥に身もだえしている今の竹弥の様子は、強風に翻弄される一輪の青白い百合のようだ。いや、まだ開花せぬ秘色ひそくいろの蕾のままである。
 激しい羞恥と怒りに、竹弥は叫んでいた。
 昨日、あれほど殺してやりたいと望んだ相手をまえに、こんな醜態をさらしている自分が無念でしかたない。
 どうして武器を用意していなかったのか、本気で後悔した。
「畜生! ほどけ! 今すぐ、ほどけ!」
 両手を縛られているので、どうあっても動くことはできず、足は縛られていないものの、杉屋を蹴りあげるのは距離的に無理だ。
「な、なんのために、こんなことをするんだ? 金かよ? 俺を脅しても金なんかないぞ!」
 その言葉に、杉屋はのけぞらんばかりに笑った。
「おまえは、本当に面白い餓鬼だな。俺の狙いは金なんぞじゃない」
「なら、なんなんだよ? 親父や兄貴を追い詰めるためか?」
 稼業の商売敵か。父や兄に恨みがあるのか。
「ふん。育ちの良い坊やが、親父とか兄貴とか言うもんじゃないぞ。ちょっと口のききかたが悪いな、おまえ」
 この状況で説教めいたことを言われ、竹弥はますます逆上した。
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