翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
58 / 225

罪の子 八

しおりを挟む
 玄関の引き戸を前に、竹弥は自分の心臓がくだける音を聞いた気がした。
「先輩……?」
 竹弥よりちょうど三歩ほど後ろにいる開耶の声が耳を打つ。
 だが竹弥はその声にこたえるより、ほとんど本能的に手を動かしていた。
 竹弥の手は、引き戸に貼りつけられている写真をはがし、握りつぶすのに忙しい。
 わずか数秒で、写真は竹弥の手のなかで揉みくちゃにされたが、視界に入ったものは永遠に消えない。
「す、すまない! このあと用事があったんだ!」
「え?」
 驚いた顔をみせる開耶に必死に弁解した。
「いや、本当にすまない、今日は駄目なんだ。また、今度来てくれないか?」
「そ、そうですか。しょうがないな」
「すまん、本当に悪い」
 とにかく今は開耶に一刻もはやくこの場を去ってほしい、というのが竹弥の本音だった。竹弥のあわてふためく態度に押されるように開耶はしぶしぶ背を向ける。
 だが、門のところで開耶は振り返って、告げた。
「でも、次はかならず上げてくださいね」
 ほのかな恨みと甘えをふくんだ声に、竹弥は「あ、ああ」と返事をするのが精一杯だ。

 開耶を返してから、竹弥は茶の間の電球の下であらためて、それを見てみた。
 この頃はカラー写真も出回りつつはあったが、一般的にはまだまだ白黒写真が主流である。
 力をこめて握っていたので、広げてみると見づらいが、その白黒写真に写っているのは、まぎれもない竹弥だった。
 それも、ほぼ裸に剝かれ、足を椅子の上で広げられて、あますところなく全てをさらけだしている、異様な姿の竹弥である。
 おそらくあのとき、意識をうしなっていたときに撮られたものなのだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

朔の生きる道

ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より 主人公は瀬咲 朔。 おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。 特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...