翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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罪の子 二

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「べつに。好きなときに男を引っ張り込めるんで、むしろ俺が出ていって、かえって喜んでるでしょうよ」
 あけすけに家庭の事情を聞かされ、竹弥は返事にこまった。
 だが、開耶がそういう話をあっさり自分にするのは、やはり竹弥の生まれ育ちのせいだということがわかる。
「お母さんは、何しているの?」
「小さいスナックをやってますけど、」
 それで開耶も水商売の店で働くことに抵抗がないのだろう。むしろ、彼はそういった世界の雰囲気に慣れているのかもしれない。
「俺がもっと小さいときは、店で歌をうたっていましたよ」
 苦笑いしながら告げる開耶の顔は、一瞬大人びて見えた。
「お母さんは、歌手だったのかい?」
 竹弥はすこし驚いたが、開耶を見ていると、どことなく納得させられもする。彼の母なら、さぞ目立つ美人なのだろう。
「売れない三流の歌手ですよ。夢ばかり見て、結局、場末の酒場で酔っぱらいの相手をして終わった女ですよ」
 オムライスを頬張りながら吐きだした言葉は残酷だが、開耶の声は淡々としており、実母にたいして恨みも軽蔑もなく、ただ事実を述べているようで、それだけに冷え切った母子関係が垣間かいま見えて、竹弥は目線を自分の皿に落とした。
「随分、ひどいことを言うんだね、実の母親だろう?」
 説教くさいことは言いたくない。なるべく軽い口調で告げ、笑ってみせた。
「事実ですからね」
 これ以上気づかない振りをするのは竹弥には無理だった。
「……君がそういうことを俺に言うのは、俺の事情を知っているからだろう?」
 隠したところで仕方ない。いや、隠す意味もない。日本じゅうが知っていることだ。
 竹弥の母、貴蝶は、竹弥がおさない頃、竹弥と兄をおいて男の元へ出奔した。相手の男はそこそこ名の知れた役者兼、舞台監督で既婚者だ。
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