翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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罪の子 一

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 この言葉も意外だった。竹弥たちの大学は、比較的富裕層の生徒が通っており、地方から上京している生徒たちも、たいていは裕福な家の子弟だ。開耶も金に困っているようには見えなかった。アルバイトする生徒も多いが、たいていは自分の為に使うか、生真面目な者なら貯金している。
 苦学生もいることはいるが、世界が違うとでも言わんばかりに、彼らの方からはあまり竹弥には寄ってこない。学生でも、やはり人は似た者同士がつどうものだ。  
 だから当然、文学サークルなどという気楽な会に入っている開耶も、生活の心配などない恵まれた育ちの人間だと思い込んでいたのだが。
 思えば、開耶が誘われてもあまりなびかないのは、交際費を節約しているからだろうか。
「痩せているのに、よく食べるね」
 竹弥は言葉をえらびつつ、気になることを訊いてみた。
「君って、生まれ育ちは都内かい?」
「んん」
 口に入れているものを強引に飲みこんで答えようとする開耶の仕草は、まるで子どものようで、竹弥はつい微笑してしまう。
「……生まれたのは横浜ですけど、中学にあがるときに親が荻窪へ引っ越して。以来東京です」
「横浜か、いい所だろうね」
 東京からはそう離れていないが、竹弥はまだ行ったことがない。京都や大阪へは父や兄に連れられて行ったことはあるが、どういうわけか横浜へは行く機会がなかった。
「まぁ……、東京とは違った良さがありますよ」
「今は一人暮らしなんだよね?」
「十六のとき家出同然に、お袋のもとを飛び出したんで」
 子どものように、オムライスの上の焼き卵を突きくずしながら、開耶がまたいたずらっぽく笑う。
 開耶のような美少年の唇から〝おふくろ〟というくだけた言葉が出るのが、また妙に微笑ましい。少年が、大人になろうと急いでいるようだ。自分もときにそんな態度を取っているのだろうか。竹弥はふと我が身をかえりみる。
「家を出てからは一回も帰ってないんですよ」
「へえ……、それじゃ、お母さん心配しているんじゃないか?」
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