翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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囚われて 九

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「あ、これ内緒だって言われていたんですが。とくに、近江先輩には言うなって口止めされていたんですけれど」
 開耶が頬を赤らめた。
「誰にも言わないよ」
 竹弥はほろ苦く笑った。ばらしたところで、伊吹はもういないのだ。怒ってあの世から戻ってきてくれるなら、いっそ嬉しいかもしれない。
「どんな詩を読んでいたんだ、あいつ?」
「フランスの詩ですよ」
「へえ」
 ますます意外で、竹弥は驚いた。だが、驚きのなかに、なんとなくすっきりしないものがある。
 伊吹清二について自分の知らないことを、木南開耶が知っているというのが嫌なのだ。
(俺は……、開耶を妬んでいるのだろうか?)
 顔に出ていたのか、開耶があわてたような表情になった。
「仲が良いほど言いづらいこともありますよね。伊吹さんは、僕がアルバイトしていた店にもよく来てくれたんです」
「へぇ、君、アルバイトしているのかい?」
 意外だった。自分よりももっと世間知らずなお坊ちゃんのように思っていた開耶が働いていたとは。しかも、客商売とは。
「どんな店で働いているんだい?」
「飲食店ですよ」
「ふうん。こういう店?」
 ウェイターだろうか。開耶の印象からして、大衆的な食堂はそぐわない気がする。ホテルか高級レストランだろうか。
 開耶は少し悪戯げに笑った。
「……夕方から始まる店ですよ」
 ますます意外だった。竹弥は眉を丸くしていた。
「バー、トリスバーとか、キャバレーかい?」
「……ええ、まぁ」
「意外だね。てっきり俺以上にお坊ちゃんだと思っていたよ」
「ふふふふ。先輩にお坊ちゃんだなんて言われたら、立つ瀬がないですね」
 これには、笑っていいのか、怒っていいのかわからない。仕方なく竹弥は苦笑で流した。
 ちょうどウェイトレスが料理を持ってきたので、二人は料理を食べながら会話した。
「嬉しいな。子どものころから憧れだったんですよ、好きなだけオムライス食べてみたいって」
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