翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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囚われて 七

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 実際には身体よりも精神的な問題のほうが大きかったのだが。竹弥は言葉をにごしていた。
「まだ、すこし、ね。もうすぐ治ると思うよ」
「じゃ、じき復学できますよね。先輩がいないと大学もサークルも楽しくなくて。僕も最近、ちょっとサボっているんです」
「それはいけないな。ちゃんと勉強しないと」
 教師のようなことを言っていると自分でも苦笑した。なんとなく、すぐ別れるのもためらわれて、竹弥は誘ってみた。
「これから、ちょっと早いけれど夕食を取るんだが、良かったら一緒にどうだい?」
 開耶の、西洋人形のような薄茶色の瞳がかがやく。
「いいんですか、嬉しいな! あこがれの先輩とご飯食べれるなんて。みんなに自慢できるや」
 暮れなずんでいく街を背に、竹弥はまた苦笑していた。
 客を呼ぶ八百屋の大声、肉屋から漏れてくる揚げ物の香、魚屋からは鮮魚の匂いがただよい、主婦たちの世間話の声が響く。春の夕暮れに、人の営みのもたらす活気にあふれた通りで、目の覚めるような美少年と対峙たいじしている今の光景は、映画なら、なかなか味わいある場面になるな、などと考えてしまう。
「なに言っているんだよ。君のほうこそ人気ものじゃないか? 皆、君を誘いたがっているのに」
 これは事実だ。木南開耶は、その秀麗な容姿で、いわくありげな噂をまといつかせつつも、いや、だからこそかもしれないが、男女問わず人の興味を引く。
 誰しも彼を誘いたがったが、竹弥が知るかぎり、開耶は人付き合いが良い方ではなく、よく断っているのを耳にした。開耶があまり人の誘いに応じないせいか、ぎゃくに彼の神秘性が増し、生徒たちの興味や執着の視線があつまるようだ。
 サークルの員数が前年にひきつづき増えたのは、竹弥と木南開耶が入会したせいだというのも、もっぱらの噂だ。
 サークルとはいっても、大学で専攻している英文学以外の文学作品に触れてみるため、月に一冊、日本、もしくは英米文学以外の海外の文学作品を読み、その感想を言い合うという、同好会のような他愛もないものだが、未知の作品に触れて、学生同士語りあうのは知的な雰囲気にみちておもしろく、竹弥は授業を受けているときよりもたのしんでいた。
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