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囚われて 六
しおりを挟む「先輩、近江先輩じゃないですか?」
その日、人でごったがえす黄昏どきの商店街でとつぜん背後から声をかけられ、竹弥はびっくりして振り向いた。
「僕ですよ。文学部のサークルでお世話になった木南です」
「ああ……、君か」
夕方前、竹弥は買い物に駅前まで来ていた。書店で二冊ほど本を購入し、どこかで軽く夕食を食べて、明日の朝食のパンでも買おうかと思っていたら、偶然、大学の後輩に出くわしたのだ。
「木南くん、この辺りに住んでいたのかい?」
木南開耶。一風変わった名前と、そのきわだった容姿で印象にのこっている下級生だ。
「ええ。アパート暮らしですけれどね」
開耶は鳶色がかった瞳を無邪気そうに見開いて、まぶしげに竹弥を見上げてきた。
小柄で華奢で、一見少女のようにも見えるが、竹弥と歳はひとつしか違わないのだから、十九歳にはなっているはずだ。だが、今も、中性的な感じの白いシャツ、というよりブラウスのような服装で、首をかしげている仕草は、歳よりかなり幼く見える。
白い肌に、日本人ばなれして目鼻顔立ちがととのっているので、大学でも彼は有名だったが、その容姿については、湿った噂がつきまとっていた。
――木南は、混血じゃないのか?
ハーフという言葉がまだそれほどに浸透していないこの頃、混血という言葉には、暗い響きがふくまれていた。混血児であるということは、すなわち父親が米兵であり、母親が米兵を相手にする夜の職業の女性だったということを示唆している。
だからというわけではないが、竹弥はサークルではじめて木南開耶を見たとき、その少女めいた美しい容貌に、奇妙な哀愁のようなものを感じたのだ。
男が美し過ぎる、ということは、かならずしも当人にとって幸せにはつながらないことを、竹弥自身、すでに本能で知っていたからだ。さらに、木南開耶の出生にかんする周囲の詮索や好奇に気づくと、言ってはなんだが、奇妙な憐憫すらわいてきた。
そう思った次の瞬間、竹弥は自嘲していた。人のことを哀れめる立場ではない。
「先輩、お身体の調子はまだ悪いんですか?」
「あ、ああ……」
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