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鏡責め 六

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 さぞ、この古い鏡はおどろいていることだろうと、竹弥はほとんど麻痺した頭でそんなことをぼんやり思っていた。
 そしてまた、そんな愚にもつかないことを思っている自分を笑いたくなった。竹弥は泣きながら笑っていた。 
「なんだ、頭がおかしくなったのか?」
 揶揄の声にうなずいているところからして、ほとんど錯乱していたのだろう。
「……いい子だ。おかしくなっていいんだ。狂えよ。狂ったおまえが見たいから、こうしているんだ」
 そう言われてかえって竹弥は正気づいた。
 狂うのは嫌だ、というふうに首をかすかに横に振る。相手が首や胸を抱きしめてきた。
 笑う男の顔は、美男を見慣れた竹弥にとっても、やはり美しい。いかにも悪役が似あいそうな、野性と剣呑さをそなえた美貌だ。
 気づいたときには、また唇をうばわれていた。竹弥は、抵抗しなかった。感覚が麻痺していたのかもしれない。
「いやだ……」
 唇が、自分でももどかしいほどゆっくり動き、かろうじて聞き取れる言葉を吐きだしていた。
「狂うのは、嫌だ……」
 近江竹弥は、やはり近江竹弥でいたい。
 くくくくく……。男が低く笑う。
「俺が狂わせてやる」
 その声を聞きながら、また竹弥の意識は闇に沈んだ。


 ふふふふふふ
 くすくすくすくす
 はははははは
 どうだった?
 おもしろかったね。
 楽しかったかい?
 とっても。
 しばらく退屈せずにすみそうだ。
 初日にしては、けっこうな見世物だったね。
 これから、ますます面白くなるだろうよ。
 
 物狂おしい春の夜が、そこまできていた。
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