翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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鏡責め 五

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 耳をおおいたくなる侮辱の言葉にも、竹弥はもはや反抗することができなくなり、うなだれて、ひたすら男の責めが終わるのを待つしかなかった。そんな無抵抗の竹弥を、男は満足そうに見ている。
「ようし、やっと素直になったな。可愛いぜ、今のおまえ、やっと誰が主人かわかった犬みたいだな。淫乱で素直な可愛い雌犬ちゃん」
 鼓膜が破壊されそうだ。
「よく聞けよ、梨園の王子様。いいか、今は……、いや、これからは俺の雌犬だ。ご主人様に撫でられて、喜んでみろ。腰振って嬉しがってみせてみろ」
「ああ!」
 椅子が揺れた。杉屋のもたらす微妙な刺激と、椅子の橇の部分が送ってくる振動がかさなり、竹弥は全身でのけぞった。
「いい顔だ。よし、鳴け、雌犬」
 たまらない振動が腰をつきぬけ、全身に痛いほどの快楽の波がはしる。
「はぁ、ああああああああっ」
 一瞬、世界が空白になり、竹弥の意識は途切れた。

「すごいな。さすがに若いだけある。見てみろ、鏡にまで飛んだぞ」
 そんな嘲笑をこめた声に、否応なしに竹弥の魂は現実世界に引きもどされた。
 顎に力を感じた。杉屋の手が伸びてきたのだ。
「ほうら、見てみろ、王子様。おまえの粗相のあとだ。鏡を汚してしまったんだぞ」
 げらげらと下品な笑い声をたてながら、男が竹弥をからかう。
 竹弥はぼんやりと目の前に視線を向けた。
 この高価そうな鏡は、その値打ちにふさわしく、名家の令閨れいけいや令嬢の綺羅をまとった美しい姿をそこに映してきたのだろう。
 歳月を経て気品をそなえた老婦人や、年端としはもいかぬ可憐な幼子が覗いたりもしたろう。
 そうやって映し出した様々な人々の人生の果てに、よもや、これほど異常で淫靡な人間の姿を映し出すことになるとは。
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