翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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鏡責め 四

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「はぁ! や、やめろ、やめろ! も、もうやめてくれ!」
 杉屋の性技と舌技は信じられないほど巧妙だった。まちがいなくこの男はその指と舌で、今までにも幾人もの男や女を色闇に突き落としてきたにちがいない。
 竹弥のように世間知らずで無垢な童貞など、この魔物のような男のまえでは、本当に赤子同然なのだ。
 翻弄されつつ、竹弥はそのことを認めて悔し泣きした。
「うう……ん、だ、駄目だぁ……! ああ! もう、もう止めてくれ!」
 文字どおり赤子の手をひねるように、杉屋はいともたやすく竹弥の誇りをくじき、純潔を汚していく。
 いつしか、竹弥のもらす言葉は、苦痛よりも悦楽を含んだものになっていく。
「ああ……駄目だ! もう、駄目ぇ……、もう、無理ぃ……!」
 あとになって、かろうじて記憶に残るこのときもらした言葉を思い出すたびに、竹弥は死にたいほどの羞恥と恥辱に泣くことになる。
 ねちねちと、苛め抜かれ、もてあそばれ、先ほどとおなじように、竹弥はみずから男をもとめる言葉を口にするよう強制された。
「ああ、いやだ! いやだ、そんな……!」
 残酷な男は、本当に竹弥がみずから〝おねだり〟するまで許さなかった。
 発狂寸前まで追いつめられた竹弥は、懊悩と逡巡のはてに、男の誇りをみずから捨てる言葉を吐きだした。
 男の指と舌と口腔と、のろのろと過ぎていく春の宵が竹弥の気骨を完全に打ち砕いたのだ。いや、とろかし曲げてしまったのだ。
 そして……、屈服の果てにゆるされた瞬間をむかえるときは、鏡を見ることを強制してきた。
 竹弥は嗚咽をこぼしながら、酷い責めを受けいれるしかなかった。
「いいか? よく見ていろよ。ほら、近江竹弥が足をおっぴらげて、男に触られて遂くところだ。後ろには、道具も仕込まれている。……これだとそれが判らないのが残念だな。今度は、もうちょっと考えてみるか」
 信じられないような残忍な言葉を聞かされつつ、竹弥は唾棄すべき卑怯な男にすがるしかなかった。そうすれば、男は麻薬のような快楽をくれるのだ。
「まったく、盛りのついた犬だな。とんでもない淫乱雌犬だな」
 竹弥は嗚咽した。いっそ、気を失えれば幸せだったろう。
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