翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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暮春に 七

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 前後を同時に嬲られるという、あまりに凄まじい行為と、予想できなかった展開、それらがもたらす甘美な屈辱に、竹弥は無我夢中で首を横に振っていた。
 ねっとりと、前方はやさしく憎い相手の口腔につつみこまれ、背後は、指で突きまわされる。
「ああ、そんな、そんな……こと」
 若い、というより未熟な竹弥は、芝居や物語のなかで、なんのかんのと言いながら男に篭絡されて操をうばわれる女たちを、心のどこかで軽蔑していた。
 本気であらがえば逃げれるはずだ、と冷たく思っていたこともあった。だが、今、こうして圧倒的な男の力に組みしかれ、雄の臭気というものを強烈に嗅がされると、責められ、受け身にされた者がいかに弱いか、思い知らされた気分だ。
「駄目だ、も、もう駄目だ……」
 お決まりの安っぽい台詞が自分の口から出るのが信じられない。
 竹弥の言葉を無視して、男は刺激をあたえてくる。
「はぁ……! ああっ、ああっ、や、やめろぉ、も、もう、そこ、触るな!」
 杉屋は驚くほどの執拗さと巧妙さで竹弥を追い詰める。たいした閨巧者だ。
 世には、男でも、容姿と性技で身を立てている者もいることは竹弥も知っていたが、この男はまさにそういう類の人間なのかもしれない。
 たかぶらせられた身体では、抵抗しようという気も萎え、立っているのも辛くてたまらない。
 縛りあげている縄に、すべてをゆだねるようにして、魂を吐きだすような吐息をひとつ吐いた刹那、蔵に小気味良い音がひびいた。
「うっ!」
 杉屋の掌が、覆うものもない竹弥の白い臀部をたたいたのだ。まるで、だらしのない子どもを叱るように。
「こら、まだおねんねするには早いぞ」
 さらにまた一発。
「はうっ!」
 幼児のように尻をたたかれ、竹弥は屈辱に歯ぎしりした。杉屋の嘲笑の声が泥のように鼓膜になだれこんでくる。耳が腐りそうだ。
 無駄だとはわかっていても、竹弥は怒鳴りつけたくなり、声を出そうとしたが、そのとき椅子がきしんだ音をたてた。
「さぁ、準備もできたし、そろそろこいつで遊んでみるか?」
 男の目線の先を、連られるようにして身をよじって追った竹弥の目は、椅子の座席の異物に向かった。
(ああ……!)
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