翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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暮春に 四

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 だが、そんな逃避はゆるさない、と言わんばかりに、背後の異物――男の指が、竹弥のかたくなな蕾を割ろうとする。
 苦笑をにじませた声が耳の後ろにひびく。 
「そんなに、緊張するな。安心しろ、今日はまだほんの練習だ。おまえのここを、慣らすだけだ」
 〝今日は〟という言葉に竹弥は心底ぞっとした。今日は、ということは、今後、他の日もこんなことをするということか。
「け、警察に行く。なにがあっても、警察に行くからな!」
 震える声でわめきたてていた。
 そうだ。中学生時代、不良たちに告げた。なにがあっても、自分は泣き寝入りはしない、と。
 濡れた目に命を懸けて怒りをこめて杉屋を見返してやった。昔から、周囲の人からは「この子は男ながらに目千両だ」と言われてきた。目力には自負がある。
 けれども相手は、竹弥の命掛けの抗議を、あっさりと鼻で笑った。笑うどころか、かえって、鋭い目に情欲を増して、新たな興奮をかくそうともしない。
「本当に、ぞくぞくするほど色っぽいな」
 おとがいを取られ、強引にふたたび唇をうばわれしまう。
 身をよじって相手の手から、縄が許す範囲でのがれたが、それ以上は逃れられるわけもなく、男のいいように翻弄されてしまう。
 暗さを増した蔵内に、荒々しくも妖しい呼吸の音がひびく。
「や、やめろ!」
 次の瞬間、ぐい、と腕がさらに強く引き上げられた。
「あっ……」
 とまどい、一瞬、竹弥は身体の均衡をくずしたが、つぎには腰に強い力を感じた。
 男の節くれだった手が、隠すものをすべて奪われた腰に触れてきた刹那、竹弥はそこに電流が走ったような錯覚をおぼえて、全身を緊張させた。
(あっ……!)
 激しい緊張が過ぎると、今度は、ふしぎな情感の波が竹弥を襲う。
 あれだけのことをされた後で、ただ掌が腰に触れているというだけのことで、どうしてもこうも身体や心が反応するのか。不思議にさえなってくる。
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