翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
28 / 225

暮春に 二

しおりを挟む
 だが、数秒後には、男の異常な目的がおぼろに察知され、竹弥はふるえた。
「ひっ!」 
 竹弥はひりつくような悲鳴をあげていた。
 臀部に、奇妙な感触が走ったのだ。
「せっかく、この椅子を使ったのだから、これもやってみないとな」
 男はおもしろそうに竹弥の狼狽を見ている。
「な、何しているんだよ!」
「うるさいな。じっとしていろよ、動くと本当に危ないからな。おまえ、ちょっと立っていろ。立てるだろう?」
 命じる声は、場違いなほど呑気なものだった。
「な、なんなんだよ!」
 男に言われたから、というより、下から迫ってくる異物の感触がおそろしく、竹弥は自ら腰に力を入れて、よろよろと立ちあがった。
 どうにかして逃れられないかと周囲を見わたしたが、腕はしっかりと縛り上げられているうえに、武器となりそうなものもない。
 壁にならぶ人形たちの首が、まるで自分の窮状を笑っているようで、竹弥はぞっとした。
 この首たちは、先ほどから竹弥の惨めな姿を見ていたのだと思うと、愚かしい八つ当たりだとわかってはいても、人形にたいして恨みがわく。
 一瞬、陀羅介だらすけと呼ばれる首と、目が合った――気がして――竹弥は硬直した。
 陀羅介とは、嫌味な憎まれ役につかわれる首である。その首が、竹弥の怯えた顔や、あらわにされている身体を、野次馬めいた好奇心で嘲笑あざわらっているような錯覚がしたのだ。
(なんだよ、見るなよ! 馬鹿野郎!)
 そんな自分でも馬鹿々々しいと思うようなことを考えていると、いつの間にかすっかり作業を終えた杉屋が、嬉しそうに告げた。
「ほら、準備完了だ。座ってみろ」
 そのときになって、はじめて竹弥は自分の嫌な予感がみごとに的中したことを知った。
「こ、これは……!」
 椅子の中央より、やや後ろから、突き出ているものは……、この蔵に入ってすぐのときに見せつけられたものと同様のものだった。
「なんといっても今日は初日だからな。なるべく小さいものにしてやったからな。感謝しろよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

朔の生きる道

ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より 主人公は瀬咲 朔。 おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。 特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...