翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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侵入 六

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「うううううっ」
 竹弥にできるのは、首を横に振ることだけだった。
「ちっ、強情な餓鬼だな」
 忌々し気につぶやくと、さらにまた男は竹弥をいたぶるべく口を開いた。
「あああっー!」
 そんな攻防がどれだけつづいたか。
 だが、やはり最後の瞬間は訪れた。
 どうあっても、竹弥の二十歳の肉体は、主よりも、このめくるめく快感を与えようとする敵の技に屈服するしかなかった。
 生身の若い身体を持つかぎり、これ以上あがくことはできないのだ。
「ああっ、ああっ、あああっ!」
「ほら、言え、」
「……」
 秘めていた気位で、最後の最後まで踏ん張ったものの、踏ん張りとおすか、気が狂うか、死ぬか、の選択では、もはやどうしようもなかった。
 竹弥が、血を吐く想いで、堪えていた言葉を口にすると、男は残酷に笑った。
「遂かせてください、お願いします、だ」
「……ううっ」
「睨むなよ。意地を張った罰だ。ほら、言え」
 片膝ついて竹弥の前にかがんでいる様子は、見た目には杉屋が竹弥にかしずいているようだが、実際にはここでは杉屋が主だった。
 芝居の名門、近江家の御曹司である竹弥の方が、この素性の知れない野蛮な男の奴隷にされてしまっているのだ。
「うう……」
 竹弥は泣きじゃくりながら、付け足された言葉をも吐く。
 敗北の言葉を言いおえると同時に、杉屋の口が竹弥におおいかぶさる。
「はぁ……!」
 今度は、止まることはなかった。
「ああっ、ああっ、あああ!」
 竹弥は意地も誇りも忘れたように、女のようになまめかしい嬌声じみた声を蔵中に響かせていた。
 一瞬、竹弥には、桜吹雪が見えた。
(ああ……すごい)
 花びらの海に身を沈めて、恥辱も恐怖も捨て、忘我の境地で、待ちのぞんだ瞬間を五体のすべてであますことなく味わっていた。

 それが……梨園の貴公子と囁かれ、少しでも日本の演劇界にくわしい人間ならば、兄に次いで、これから舞台に花開くであろう、将来有望な、明日の若手役者の筆頭とみなされていた近江竹弥の陥落であった。
 だが、それは最初の陥落であり、まだ序の口でしかなかった。

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