26 / 225
侵入 六
しおりを挟む
「うううううっ」
竹弥にできるのは、首を横に振ることだけだった。
「ちっ、強情な餓鬼だな」
忌々し気につぶやくと、さらにまた男は竹弥をいたぶるべく口を開いた。
「あああっー!」
そんな攻防がどれだけつづいたか。
だが、やはり最後の瞬間は訪れた。
どうあっても、竹弥の二十歳の肉体は、主よりも、このめくるめく快感を与えようとする敵の技に屈服するしかなかった。
生身の若い身体を持つかぎり、これ以上あがくことはできないのだ。
「ああっ、ああっ、あああっ!」
「ほら、言え、」
「……」
秘めていた気位で、最後の最後まで踏ん張ったものの、踏ん張りとおすか、気が狂うか、死ぬか、の選択では、もはやどうしようもなかった。
竹弥が、血を吐く想いで、堪えていた言葉を口にすると、男は残酷に笑った。
「遂かせてください、お願いします、だ」
「……ううっ」
「睨むなよ。意地を張った罰だ。ほら、言え」
片膝ついて竹弥の前にかがんでいる様子は、見た目には杉屋が竹弥にかしずいているようだが、実際にはここでは杉屋が主だった。
芝居の名門、近江家の御曹司である竹弥の方が、この素性の知れない野蛮な男の奴隷にされてしまっているのだ。
「うう……」
竹弥は泣きじゃくりながら、付け足された言葉をも吐く。
敗北の言葉を言いおえると同時に、杉屋の口が竹弥におおいかぶさる。
「はぁ……!」
今度は、止まることはなかった。
「ああっ、ああっ、あああ!」
竹弥は意地も誇りも忘れたように、女のようになまめかしい嬌声じみた声を蔵中に響かせていた。
一瞬、竹弥には、桜吹雪が見えた。
(ああ……すごい)
花びらの海に身を沈めて、恥辱も恐怖も捨て、忘我の境地で、待ちのぞんだ瞬間を五体のすべてであますことなく味わっていた。
それが……梨園の貴公子と囁かれ、少しでも日本の演劇界にくわしい人間ならば、兄に次いで、これから舞台に花開くであろう、将来有望な、明日の若手役者の筆頭とみなされていた近江竹弥の陥落であった。
だが、それは最初の陥落であり、まだ序の口でしかなかった。
竹弥にできるのは、首を横に振ることだけだった。
「ちっ、強情な餓鬼だな」
忌々し気につぶやくと、さらにまた男は竹弥をいたぶるべく口を開いた。
「あああっー!」
そんな攻防がどれだけつづいたか。
だが、やはり最後の瞬間は訪れた。
どうあっても、竹弥の二十歳の肉体は、主よりも、このめくるめく快感を与えようとする敵の技に屈服するしかなかった。
生身の若い身体を持つかぎり、これ以上あがくことはできないのだ。
「ああっ、ああっ、あああっ!」
「ほら、言え、」
「……」
秘めていた気位で、最後の最後まで踏ん張ったものの、踏ん張りとおすか、気が狂うか、死ぬか、の選択では、もはやどうしようもなかった。
竹弥が、血を吐く想いで、堪えていた言葉を口にすると、男は残酷に笑った。
「遂かせてください、お願いします、だ」
「……ううっ」
「睨むなよ。意地を張った罰だ。ほら、言え」
片膝ついて竹弥の前にかがんでいる様子は、見た目には杉屋が竹弥にかしずいているようだが、実際にはここでは杉屋が主だった。
芝居の名門、近江家の御曹司である竹弥の方が、この素性の知れない野蛮な男の奴隷にされてしまっているのだ。
「うう……」
竹弥は泣きじゃくりながら、付け足された言葉をも吐く。
敗北の言葉を言いおえると同時に、杉屋の口が竹弥におおいかぶさる。
「はぁ……!」
今度は、止まることはなかった。
「ああっ、ああっ、あああ!」
竹弥は意地も誇りも忘れたように、女のようになまめかしい嬌声じみた声を蔵中に響かせていた。
一瞬、竹弥には、桜吹雪が見えた。
(ああ……すごい)
花びらの海に身を沈めて、恥辱も恐怖も捨て、忘我の境地で、待ちのぞんだ瞬間を五体のすべてであますことなく味わっていた。
それが……梨園の貴公子と囁かれ、少しでも日本の演劇界にくわしい人間ならば、兄に次いで、これから舞台に花開くであろう、将来有望な、明日の若手役者の筆頭とみなされていた近江竹弥の陥落であった。
だが、それは最初の陥落であり、まだ序の口でしかなかった。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説



ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!


朔の生きる道
ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より
主人公は瀬咲 朔。
おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。
特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる