翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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侵入 四

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(こんな、こんなことが……!)
 女色男色という言葉があるほどで、同性をこのむ男が世にいることは、竹弥だとて当然知っているし、幼いころから芸能界や花柳界についての事は、大人たちの会話から否応なしに知識を得てきた。
 なにより竹弥のまわりには、並みの女以上に美しい男もすくなくなく、そういう美しい男や女は、どうしても周囲の人間の秘めた性情を刺激するもので、悶着の種となって、それにまつわる噂話が、若い竹弥の耳に入ってくることもよくあった。
 だが、こうして実際に我が身に振りかかるなど想像したこともない。
 しかも、これほどの強烈な、一方的な暴力によって経験させられるとは。
 竹弥の目尻に涙がつたう。
 凄まじい感触に、精神も魂もつつみこまれ、押しつぶされそうになる。
「ううっ、うううっ、あっ……!」
 目をとじた黒一色の世界に、ちいさな星がひとつまたたいた。
(あ、駄目だ! いくぅ!)
 女がこぼすような言葉が脳内ではじけ、四肢が突っぱったが、その次の刹那せつな、竹弥が漏らしたのは、失望の悲鳴だった。
 その次は、死にたくなるほどの恥辱と敗北感。
 くっ、くっ、くっ……。
 地獄の底から響いてくるような男の嘲笑が鼓膜を刺す。
「ああ……駄目だ!」
 実際に、竹弥は無念の声をあげていた。
 男の口は、まさにあと一歩、いや半歩という絶妙な瞬間で、無情にも竹弥をほうりだしたのだ。
 生まれて初めて味わう強烈きわまりない快感を強制的に経験させられて、とつぜん放擲ほうてきされたのだから、若い竹弥が名残おしげに呻いたとしても仕方ない。
 竹弥が出した声ではない。竹弥の二十歳の肉体と血潮が放った声なのだ。
 だが、羞恥と恥辱ははかりしれない。
 竹弥は、男の口技に負けてしまい、あろうことか、相手にしがみつくような声を出してしまったのだ。
 屈辱感に息を吐くことも忘れてしまっている竹弥を、男は膝をついたまま見上げ、満足そうに笑った。
「よしよし。きたいんだな。いい子だ。素直に言えよ。遂かせてください、と」
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