翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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侵入 一

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 大声を出せば、誰かが助けてにきてくれるだろうか。
 だが、ここは個人の邸の庭で、塀の外の通行人の耳にまで声をひびかせるのは難しい。
 第一、仮にだれかが不審におもって敷地内に入って来たとしても、今の自分のみじめな姿を人目に晒すなど、竹弥には耐えられない。 
 こんなことが人に知られたら、自分だけでなく、父や兄までひどい醜聞にまきこまれてしまう。
 迷っているうちに、いよいよ男の狼藉はひどくなる。
「ああっ!」
「ふうん。まだどこか子どもっぽいな」
 肉体の一番敏感な箇所を指でつままれ、竹弥は歯を食いしばった。
「おまえ、無垢だな」
 男の卑しい笑いに、体内中の血が逆流する。
「正真正銘の初物ということだな」
 嘲笑をふくんだ言葉に、無駄だとわかっていても、竹弥は足を揺らした。
「うるさい!」
「おおっと」
 おどけた仕草で相手は、顔にあたりそうになった竹弥の足先をかわした。
「へぇ、見た目は女みたいな顔なのに、けっこうやんちゃだな」
 右頬に触れてきた手は、ごつごつとしているが、意外にも優しい。
 男が言うように、竹弥は外見から大人しいと見られやすいし、無口な方なので気が弱いととられることも多いが、自分ではけっしてそうではないと思っている。
 怒るときは本当に怒るのである。
 中学生のときに上級生の不良三人にからまれたことがあった。人気のない体育館の裏に呼び出され、家のことであれこれからかわれ、煙草を吸うように命じられたことがあった。
 竹弥はきっぱりと断った。
 いきりたつ相手は暴力をふるおうとしたが、竹弥はなにかに憑かれたように叫んでいた。
(俺の顔は商売道具ですからね。もし傷ひとつでもつけたら、訴えますよ。俺は絶対泣き寝入りしませんよ。教師にも親にも言います!)
(告げ口かよ)
(なんとでも言ってください。とにかく泣き寝入りはしませんからね!)
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