翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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闇の炎 七

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 男は自分の腰の後ろに手をまわした。
 パチン、と音がして、先ほど見せつけたナイフがふたたび薄闇に光る。ズボンの尻ポケットに入れていたのだろう。
「よ、よせ! やめろ!」
「ふふ。いい格好だな。もっといい格好にしてやるよ、坊主」
 杉屋の太い指が、下着の前を引っ張った。
「おやおや、可哀想におびえてるな。情けねぇな、梨園の御曹司が。今にも小便こぼしそうじゃねぇか」
 なぶる下品な言葉に全身が燃え、恐怖に本当に失禁しそうだった。そんな恥だけは晒したくなく、竹弥は男よりも己の内の恐怖心とたたかった。
「安心しろ、ひどいことはしない」
 笑いながら言う言葉には、ひとかけらの真実味もない。
「こ、こんなひどいことしておいて……!」
 竹弥は悔しくて唇を噛んだ。
「本当だぞ。坊主の可愛い姿をたっぷり鑑賞したら、次はうんと気持ちよくしてやるぜ」
「な、なんで、こんなことをするんだ!」
 もしかしたら、と竹弥は恐慌に気をうしないそうになりながらも、考えた。
 父や兄の競争相手のまわし者だろうか。竹弥を傷つけて、父や兄の仕事に打撃をあたえたいのか。
「お、おまえ、藤宮の者かよ?」
 竹弥は荒々しい口調で訊いていた。
 その名は父の最大の敵とみられている歌舞伎の宗家のものだ。若い頃はしのぎを削って父と争った人だと聞き、母のことがかなり新聞雑誌で書かれたときに、裏で手をまわして煽っていたのは藤宮の一派だともいう。だが、近年は、父が歌舞伎界から足を遠ざけたこともあって、競争意識も引いたと聞いていたが。
「知らねぇな。演劇界のごたごたなんぞ、どうでもいいさ。それより、俺はこっちの方がずっと興味があるんでね。ほら!」
「くぅ!」
 ザクッ、と布を裂く独特の音が響き、竹弥は股間にも空気を感じた。
「ああ……!」
 下肢を完全にあらわにされていく羞恥と恥辱に呻いた。
 そのときになって、壁の円窓が雨戸も開けられ全開になっていることに気づいた。錆びた鉄格子がまっているのだが、それでも声や物音は外へも聞こえる。
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